第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 国際社会の安定化のための努力

 冷戦終結後、それまで十分に機能していなかった国連による平和維持の制度に対する期待が高まり、多くの国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)が設立された。また、近年では、紛争に適切に対処するための方法として、欧州連合(EU:European Union)やアフリカ連合(AU:African Union)のような地域的枠組による取組や、安保理決議により権限を与えられ、多国籍軍が治安維持や人道復興支援などにあたる例もみられる。さらに、平和維持のみならず、紛争防止や平和構築に向けた取組も活発化している1
 PKOは、伝統的には、停戦の合意が成立した後に、停戦監視などを中心として、紛争の再発防止を主たる目的として行われてきたが、冷戦終結後、その任務は、武装解除の監視、選挙や行政監視、難民帰還などの人道支援など、文民の活動を含む幅広い分野にわたるようになった2
(図表I-1-4-2 参照)
 
図表I-1-4-2 活動中の国連平和維持活動一覧

 一方で、近年のPKOをめぐる環境は厳しさを増している。PKOの展開先はアフリカが主体であり、紛争当事者間の合意が実質的に維持されていない状態で活動が行われ、困難に直面する事例3もみられる。国連憲章第7章の下での強力な権限4を与えられる活動も設立されるようになったが、社会基盤が整備されていない地域で活動を効果的に行う観点からも、機材の確保や要員の安全確保、部隊の能力向上などが課題となっている。AUなど、紛争を抱える地域の国々による主体的な平和維持活動も試みられる中、部隊の能力向上なども重要な課題となっている。


 
1)07(平成19)年10月に紛争防止を担う国連政務局の強化が提案されたほか、紛争後の平和構築のための統合戦略を助言する平和構築委員会が、06(同18)年以降本格的な活動を開始し、現在、ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ共和国の4か国を正式議題に取り上げている。

 
2)さらに、活動の人的規模も顕著な拡大を見せている。派遣人員数は、バルカン半島やソマリアへの大型PKO派遣が行われていた93(平成5)年以降、一時は約1万2,000人にまで減少したが、00(同12)年頃からアフリカ、中東を中心に大型ミッションが増加したことにより再び上昇に転じた。本年2月末現在、全世界で16のPKOが展開し、120か国、約9万人が参加している。

 
3)エチオピア・エリトリア間の紛争においては、00(平成12)年に停戦合意が成立し、これを受けて安保理が国連エチオピア・エリトリア・ミッション(UNMEE:United Nations Mission in Ethiopia and Eritrea)を設立、展開したものの、エリトリアによる著しい妨害行為により任務遂行が困難に直面したため、昨年7月、安保理がUNMEEの撤退を決定した。

 
4)たとえば、近年設立されたPKOにおいては、文民の保護や国連施設の警護、治安維持などのために、必要なあらゆる措置をとることが認められている場合がある。


 

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