第IV部 防衛省改革 

(解説)防衛省改革のキーワード

本年5月に石破前防衛大臣より示された防衛省改革のキーワード(抄)は以下のとおりである。

1.「自衛隊(軍隊)からの安全」とともに「自衛隊(軍隊)による安全」を
 従来わが国において「文民統制」とは、実力組織が民主主義体制を脅かすことを防ぐという意味の「消極的文民統制」が中核概念であったが、今日においては、これに加え、「自衛隊をいかに活用して国家国民の安全を確保し、国益を実現するか」との「積極的文民統制」が必要となっている。
 民主主義的文民統制の主体が、主権者たる国民に責任を負う政治家である以上、その補佐体制を最善のものとすることが強く求められる。

2.部分最適化から全体最適化へ
 四つの幕僚監部と内部部局が分立している現在の防衛省・自衛隊において、組織ごとの利益、各組織内における個別最適が優先され、防衛省・自衛隊としての全体最適化が図られることが極めて困難なシステムとなっている。従って、各組織が個別最適の実現を図り、全体最適が損なわれかねない組織構造を改める必要性を痛感している。
 そのためには、現在の組織を可能な限り一体化し、文官と制服自衛官とが互いの特性を十分に活かして防衛大臣を補佐し、防衛省・自衛隊全体としての最適化を図ることによって、国家国民に最高のサービスを提供できる体制を作る必要がある。

3.現場部隊と中央組織との距離と時間の極限
 現在の組織は、現場の部隊から中央組織に至るまでの多くの結節点と大きな距離感覚の存在によって、部隊の実情や現場の情報が中央組織に届くまでに多くの時間を要する、各結節点において現場からの情報が変質し部隊の実情や現場の情報(事実)が正確に伝達されない、大臣をはじめとするトップの意思が正確に伝わらない、など認識のギャップが生じる場合も見られる。
 このような不具合を解消するためには、中間組織の介在を極力排除し、簡素な組織構造に改める必要がある。
 また、自衛隊の実働任務が増加している現在、自衛隊には法令に厳格に従った任務の適切な遂行を行うと同時に、その任務や活動の実態を中央組織が正しく把握し、これを適宜適切に国会や国民に報告するなどの説明責任を果たすことが求められる。
 このような行政事務の正確性やスピードの担保は今後の自衛隊にとって死活的に重要であり、そのためにも組織構造を可能な限り簡素化しなければならない。

4.人的資源配分の最適化とこれによる現場部隊や教育現場の人的充実
 重層的で結節点の多い組織構造によって、人的資源の配分が効率的になされていない状況が生じている。
 各年度の予算作業はその典型例であり、現場部隊からの要望を各幕僚監部でとりまとめ、仮定の予算枠に収める作業を行った後、内局がさらにそれを全体のバランスを考慮して査定する、という二重作業となっている。このため、各幕僚監部の相当の部分・人員が「一年中予算作業」という状態になっているが、これが中央組織として最も理想的・効率的な形態とは思料されないところである。
 一方で現場では定員割れの状況が生じ、部隊によっては人員不足が慢性化しつつある。
 高級幹部自衛官を現場部隊に廻したとしても、人員不足を解消する効果が直接的に見込めるものではないが、現場でできることは現場で行う、との意味で幹部自衛官が手薄なところを厚くする効果は期待できよう。
 また、各種・各級の教育機関の指導の任にあたる教官などにも、優秀な人材をより多く配することができ、将来的な人材育成にも資することとなるものと考える。

5.文官と制服自衛官との間における責任転嫁の排除と人材の育成
 内部部局の文官にとって、現場部隊の業務、第一線で働く自衛官たちの実情についての知識や認識なくして、適正な防衛行政は遂行できない。
 他方自衛官は、中央組織たる幕僚監部においても、主に部隊運用や現場部隊の訓練・整備に志向し、対外調整や国会等の対応、国民に対する説明責任等の中央組織に求められる機能を自ら果たすことがない。部外からの厳しい批判に直接晒されないことにより、組織特有の文化が温存される傾向が感ぜられる。
 「対外調整や国会対応などのみを担当する内部部局(文官中心)」と「部隊と現場のみを担当する幕僚監部(自衛官中心)」という二分化の体制は、これまでの様々な不手際や失敗の根本的な原因の一つになっていると考えざるを得ない。
 文官が現場部隊の困難を知り、自衛官も対外調整や国会対応の困難さを知ることにより、相互理解が深まり、文官と自衛官との間における責任転嫁が排除されるとともに、それぞれの特性と知見を発揮してバランスの取れた防衛のプロフェッショナルとして育成されていくことが期待される。このような人材育成上の観点からも、文官と自衛官が一体化した組織構造と業務遂行が極めて重要である。

 

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