第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備 

(解説)文民統制について

 軍隊は国の平和と独立を守る不可欠の手段である一方、古代ギリシアの哲学者プラトンが、国民を守るべき軍隊によって、かえって国民が危険にさらされるということを述べたように、軍事力は、国民を守る力であると同時に、使い方を誤ると、国民に対する脅威ともなりうる。このため、軍を政治の統制のもとに活用するとともに、軍の政治介入を防ぐため、文民統制、すなわち軍事力に対する民主主義的な政治統制を確保するための制度が作られてきた。
 文民統制の制度は、英国において、議会が絶対君主の王権を制限していく立憲主義の形成過程において、初めて形作られたとされている。すなわち、1215年に制定された「マグナ・カルタ(大憲章)」においては、国民の権利を保護すべく、王権などに対する各種の制限が明文化されるとともに、1628年には、議会から国王に対し、法令に従って権利及び自由を与えることを求める「権利の請願」が行われた。また、名誉革命後の1689年に制定され、英国立憲政治の基礎を確立したとされる「権利の章典」においては、議会の同意なしに平時に王国内で常備軍を徴集し維持することは違法であると定められ、この制度は今日においても維持されている。
 さらに、1787年に制定された米国合衆国憲法やフランス革命後に制定された仏国の1791年憲法などにおいても、文民統制の諸制度が規定されてきており、今日においては、米国、英国、独国、仏国などの欧米民主主義諸国において、議会が軍隊に関する重要な事項について、法律、予算の形で議決することとされているほか、大統領や首相などが軍隊に対する統制を行うこととされている。このように、文民統制を確保するための諸制度が各国において確立されている。
 各国の制度については、たとえば、独国では、議会による軍隊の統制について特に意を用いているとされるが、仏国では、議会よりも行政府による軍隊の統制がより強いとされており、必ずしも一様なものではない。
 また、文民統制を実効あるものとするための大統領や首相を補佐する国防組織についても、たとえば、米国の中央部局(国防長官府)は政治任用された文官が中心の組織となっているが、英国の中央部局は文官と軍人が並列に配置された組織となっているなど、それぞれ異なったものとなっている。
 わが国においても、厳格な文民統制に関する諸制度が採用され、終戦までの経緯の反省の上に立って、実力組織である自衛隊を民主主義の原則のもと整備・運用し、文民統制の徹底を図っている。
 今日、自衛隊は、冷戦の終結、テロなどへの対処、わが国の国際的地位の向上などをはじめとする時代の変化に対応して、わが国の安全保障を一層確実なものとするため、国際平和協力活動をはじめとして、国内外で様々に活動することが期待される実力組織となるに至っている。
 わが国としては、国益を確保し、国際的責務を果たすため、自衛隊をいかに積極的に活用するかという観点も十分考慮に入れて、文民統制の諸制度を更に強化・充実させ、防衛省・自衛隊のあり方を再構築する時代に直面している。

 

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