第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 わが国の周辺の安全保障環境


 アジア太平洋地域では、中国やインドなど、急速な経済発展を遂げている国が見られ、経済面を中心として、この地域への世界的な関心が高まるとともに、域内各国間の連携・協力関係の充実・強化が図られてきている。他方で、この地域は、政治体制や経済の発展段階、民族、宗教など多様性に富み、また、冷戦終結後も各国・地域の対立の構図が残り、さらには、安全保障観、脅威認識も各国によってさまざまであることなどから、冷戦終結に伴い欧州地域でみられたような安全保障環境の大きな変化はみられず、依然として領土問題や統一問題といった従来からの問題も残されている。
 朝鮮半島においては、半世紀以上にわたり同一民族の分断が継続し、南北双方の兵力が対峙する状態が続いている。また、台湾をめぐる問題のほか、南沙(なんさ)群島をめぐる領有権の問題なども存在する。さらに、わが国について言えば、わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在している。
 北朝鮮の核・弾道ミサイルの問題は、より深刻なものとなっており、06(平成18)年の弾道ミサイル発射と地下核実験の実施発表は、わが国のみならず国際社会の平和と安全に対する重大な脅威と認識された。北朝鮮の核問題については、六者会合の成果文書に基づき、寧辺(ヨンビョン)の核施設の活動停止が実現し、核計画の申告が提出されたところである。しかしながら、寧辺の核施設の無能力化は完了しておらず、申告についてもしっかりと検証していく必要があることから、今後の北朝鮮側の出方を含め核問題の行方については引き続き注視していく必要がある。また、北朝鮮による日本人拉致問題は、わが国の国民の生命と安全に大きな脅威をもたらす重大な問題であるが、依然未解決であり、北朝鮮側の誠実な対応が求められる。
 韓国では、本年2月に李明博(イ・ミョンバク)大統領が就任し、北朝鮮による核放棄に向けて米国や日本との連携を強化していくことが期待されている。
 また、この地域の多くの国は、経済成長を背景として、国防費の増額や新装備の導入など軍事力の拡充・近代化を行っている。
 特に、今日、政治的・経済的に地域の大国として重要な影響力をもつ中国は、各国がその動向に注目する存在になっている。中国は継続する高い国防費の伸びを背景に軍事力のさらなる近代化を推進しているが、その現状や将来像が明確にされていないため、中国の軍事力が地域情勢やわが国の安全保障にいかなる影響を与えていくのかが懸念されるところである。さらに、中国の安全保障や軍事に関する意思決定プロセスについて、透明性が十分に確保されていないことにより各国が不信感や誤解を抱く可能性が指摘されている。これらのことから、中国の国防政策に関する透明性の一層の向上が求められており、中国との間で対話や交流を促進し、相互理解と信頼関係を一層強化していくことが重要な課題となっている。
 プーチン前政権の下で「強い国家」として国際社会への復帰を果たしたとするロシアは、昨今の経済発展を背景に、国力に応じた軍事態勢の整備を行うとしている。極東においても、昨年来から、ロシア軍の航空機が練度回復を図る中にあって活発な動きを見せており、本年2月にはロシア軍の爆撃機がわが国の領空を侵犯するなど、わが国として注視すべき事象が生じている。
(図表I-0-0-1 参照)
 
図表I-0-0-1 アジア太平洋地域における主な兵力の状況(概数)

 加えて、最近では、東南アジア地域におけるテロや海賊行為などの問題が地域の安全保障に深刻な影響を及ぼすようになっている。インドネシア、フィリピンやタイでは、テロ組織や分離独立勢力によるとみられるテロの脅威が存在しており、また、国際的に重要な海上交通路であるマラッカ海峡やシンガポール海峡などは、海賊行為などの多発地域となっている。これらに対しては各国共同の取組が行われ、改善の兆しもみられている。
 以上のように、今なお不透明・不確実な要素が残されているアジア太平洋地域においては、地域の安定のため、米軍のプレゼンスは依然として非常に重要であり、わが国をはじめ各国が、米国との二国間の同盟・友好関係を構築し、これらの関係に基づき米軍が駐留するなどしている。
 他方、近年、この地域では、域内諸国の二国間軍事交流の機会の増加がみられるほか、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)や民間機関主催による国防大臣参加の会議などの多国間の安全保障対話や二国間・多国間の共同演習も行われるようになっている。地域の安定を確保するためには、こうした重層的な取組をさらに促進・発展させていくことも重要である。

 

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