第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 地域内の諸問題と協力


 東南アジア諸国では、地域の多国間安全保障の枠組みとしてASEANの活用が図られている。94(平成6)年から開始されたアジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする対話のフォーラムであるASEAN地域
フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)に加え、06(同18)年5月には初のASEAN国防相会議が開催され、昨年11月には第2回会議が開かれた。また、同年11月の第13回ASEAN首脳会議においては、15(同27)年までのASEAN共同体設立に向け、基本原則となるASEAN憲章が採択された1。内政不干渉を掲げ、コンセンサス方式をとるASEANでは、これまでミャンマーに対して実効性のある措置がとられてこなかったことから、その機構改革の行方が注目されていたが、ASEAN憲章では、従来どおり全会一致を原則とし、一致が得られない場合には首脳会議が意思決定の方法を決めるとした。また、重大な憲章違反や憲章遵守違反があった場合に、問題を首脳会議に付託することや、人権機関を設立することなどが盛り込まれ、ASEANの機能強化が図られた。
 東南アジア地域においては、テロや海賊のような国境を越える問題への対応のための多国間の協力が進展している。各種のASEAN会議において、テロ問題が継続的に協議されており、06(同18)年7月のARF閣僚会合では、「サイバー攻撃およびテロリストによるサイバー空間の悪用との闘いにおける協力に関するARF声明」などが採択されている。
 04(同16)年7月には、マレーシア、インドネシアおよびシンガポールの3か国が、マラッカ・シンガポール海峡の海賊などの警戒のため、3か国の海軍が互いに連携を取りつつ各々自国の領域をパトロールする「調整されたパトロール(The Trilateral Coordinated Patrols)」を開始し、05(同17)年9月には、沿岸3か国の航空機による共同パトロール(Eyes in the Sky)も始動させている。また、04(同16)年以降、マレーシア、シンガポール、英国、オーストラリア、ニュージーランドによる「5か国防衛取極め(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」の枠組みで、海上阻止訓練などを内容とする共同統合演習が実施されている。わが国が提案・主導した「アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP:Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia)」2については、06(同18)年9月に発効し、同年11月には、同協定に基づく情報共有センターがシンガポールに設立された3
 昨年8月以降、ミャンマー国内各地で僧侶を中心とした大規模な反政府デモが頻発し、ミャンマー政府は国軍などを投入してデモの鎮圧を実行したが、この際、多数の負傷者や死亡者を出した。また、本年5月、サイクロンにより、多数の住民が被災し、家屋の損壊、交通・ライフラインの寸断など大規模な被害が発生した。この災害に対し、各国から救援要員派遣の申し出があったが、当初ミャンマー政府はタイ、インド、中国、バングラデシュ以外の国からの救援要員の受入を拒否した。しかしその後、ASEANや国連の働きかけを受け、ミャンマー政府は人道支援目的の救援要員の受入に同意した。また、被災後間もない時期に、ミャンマー政府は当初から予定されていた軍の権力を維持する内容を含む新憲法の国民投票を実施した。
 東ティモールでは、06(同18)年4月の治安悪化を受け、オーストラリア、ニュージーランド、ポルトガル、マレーシアの4か国が国際治安部隊を現地に派遣し、同年8月には、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT:United Nations Integrated Mission in Timor-Leste)が設立された4。昨年4月以降、大統領選、国民議会選挙などが実施されたが、UNMITなどによる治安対策強化もあって、大きな騒動に至らず一連の選挙は終了した。しかし、本年2月、ラモス・ホルタ大統領およびグスマン首相に対する武装勢力による襲撃事件が発生し、これを受け、国内に非常事態宣言が発令され5、国連は派遣中のUNMITのマンデートを来年2月26日まで延長した6。襲撃事件以降、東ティモールでは大きな混乱はないと伝えられるが、依然として治安情勢などは不安定であり、今後の同国の安定化へ向けたプロセスが注目される。


 
1)本年4月末現在、批准国はシンガポール、マレーシア、ブルネイ、ラオス、ベトナム、カンボジアの6か国。憲章の発効には加盟全10か国の批准が必要。

 
2)海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じ、海上保安機関間の協力強化を図ることを目的としており、ASEAN諸国(フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、バングラデシュ、中国、インド、韓国、スリランカが締約国となっている。

 
3)国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)によると、東南アジアおよびマラッカ海峡における海賊の発生件数は、00(平成12)年が262件、以降、170件(同13年)、170件(同14年)、189件(同15年)、173件(同16年)、122件(同17年)、88件(同18年)、80件(同19年)と推移しており、04(同16)年から減少傾向にある。

 
4)本年4月末現在、文民警察要員1,519名および軍事監視要員31名が展開している。

 
5)本年5月8日に解除されている。

 
6)国連総会決議第1802号


 

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