第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 安全保障・国防政策


1 基本姿勢


 ロシアには、00(平成12)年1月に改定1した「ロシア連邦国家安全保障コンセプト」がある。この中で、現在の世界情勢について、ロシアをはじめとする国々などによる多極的な世界の形成を推進するすう勢と、西側諸国による支配を確立しようとするすう勢という二つのすう勢があるとしている。このような国際関係の下でのロシアの安全保障に対する脅威として、テロ、国連などの役割を低下させようとする動き、NATOの東方拡大2などを指摘し3、西側諸国におけるハイテク兵器の増大およびロシアの軍や軍産複合体の改革の遅延などとあいまって、ロシアの安全保障の弱体化をもたらしているとしている。以上のような認識の下、あらゆる規模の侵略を未然に防止するため、核戦力の保有を含む抑止のための措置を講じなければならないとしている。
 この「コンセプト」の下、ロシア国防政策の基本理念として同年4月に策定された「ロシア連邦軍事ドクトリン」の中では、伝統的な形での直接侵略の脅威は低減しているが、潜在的な国内外の脅威は存続し、一部ではむしろ増大する傾向にあるとしている。こうした認識の下、核兵器を含むあらゆる手段による侵略の抑止などを国防の目的とし、通常兵器による大規模侵攻に対する報復などのためにも核兵器を使用する権利を留保するとしている。
 さらに、前述の「コンセプト」および「ドクトリン」の方針を具体化した文書と位置づけられる、03(同15)年発表の「ロシア連邦軍整備の緊急課題」では、軍の任務として、国家防衛だけでなく、国際テロとの戦いなど平時におけるさまざまな作戦4の実施が挙げられている。また、ロシアの領土の広さから、常時即応部隊5の戦域間機動の重要性が指摘されている。
 なお、プーチン大統領(当時)は、国家安全保障コンセプトの見直しを国防相らに指示しており、本年5月現在、改定作業が進められている。


 
1)97(平成9)年に策定された「ロシア連邦国家安全保障コンセプト」を00(同12)年1月に改定した。これは、NATO拡大、ユーゴ連邦共和国への空爆、NATOのいわゆる「新戦略概念」の発表やロシア内外でのイスラム過激派の台頭などの情勢変化に対応するためになされたものである。現在、「コンセプト」の改定作業が行われているとみられ、本年1月、ロシア軍事学アカデミーおよびロシア国防省共催で「国家安全保障に関する学術会議」が開催され、「コンセプト」改定問題などについて議論が行われた。その中で、00(同12)年当時から現在までの情勢認識を比較し、ロシア国内のテロ対策を過度に重視せず、欧米諸国への対抗を重視し、軍の近代化の追及と抑止力確保のための戦略核戦力の維持・向上に努めることなどが示唆されている。

 
2)NATO拡大に対するロシアの姿勢には、「コンセプト」が策定された当時と比較して変化がみられる。近年、ロシアは、NATO拡大を懸念する発言を繰り返す一方、NATOとの協力推進を重視する旨表明し、05(平成17)年4月には、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF:International Security Assistance Force)展開を念頭に、ロシアとNATOとの間で、双方の軍が互いの領土を通過することなどを可能にする地位協定が調印された。

 
3)ロシアに対する脅威としてこのほか、多極化世界の中心の1つとしてのロシアの弱体化を図る試み、CIS統合プロセスを弱体化させる動き、ロシアに対する領土要求などを指摘している。

 
4)平時におけるその他の作戦として、破壊活動の予防・阻止、戦略抑止能力の使用準備態勢の維持とその使用、国連またはCISの委任による平和創設作戦、非常事態の予防とその被害の復旧などが列挙されている。

 
5)ロシア連邦軍発足以後の兵力削減の中、部隊の再編により、人員を集中させて即応態勢を高めた部隊で、大規模戦争の初期段階や小規模紛争に即戦力として迅速に対処することが期待されている。


 

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