第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 台湾の軍事力など


 台湾は「防衛固守、有効抑止」を内容とする軍事戦略を採っているとされており、具体的には、敵の侵攻に対する防衛戦力を構築することにより、敵が台湾への侵攻を想定した場合の勝利の不確実性や被害見込みを増大させ、台湾に対する軍事行動を放棄させることなどであるとされている1
 台湾は、04(平成16)年1月から、防衛資源の効率的な運用、兵力削減、組織改編、志願を主体とする兵役制度への転換などを目的とする「精進案」を実施している。同案によれば、本年末までに総兵力を27万5,000人に削減することとされている。また、台湾軍は、同時に、先進科学技術の導入や統合作戦能力の整備を重視している。台湾の防衛費の対GDP比は00(同12)年以降、3%未満で推移していたが、05(同17)年8月に、陳水扁総統(当時)は、増大する国防需要を満たすため、同年度に約2.4%であった防衛予算額の対GDP比を3年以内に3%に引き上げる方針を示し、2008年度には3%に達したとされている2
(図表I-2-3-6参照)
 
図表I-2-3-6 台湾の防衛費の推移

 台湾軍の勢力は、現在、陸上戦力が陸軍41個旅団および海軍陸戦隊3個旅団などの約21万5,000人であり、このほか、有事には陸・海・空軍合わせて約165万人の予備役兵力を投入可能であるとみられている。海上戦力については、米国から導入されたキッド級駆逐艦が就役したほか、比較的近代的なフリゲートを保有している。航空戦力については、F-16A/B戦闘機、ミラージュ2000戦闘機、経国戦闘機を保有している。
 中国軍がミサイル戦力や海・空軍力の拡充を進める中で、台湾軍は、装備の近代化が依然として課題であると考えている。台湾行政院は、04(同16)年6月に、ディーゼル型潜水艦8隻、哨戒機(P-3C)12機、既に保有している地対空ミサイルペトリオットPAC-2の近代化改修および最新型であるPAC-3を米国より購入するための予算案を策定したが、与野党の対立により、野党が多数を占める立法院において06(同18)年まで承認されない状態が続いた。昨年度予算において与野党の妥協が成立し、昨年度および本年度予算においては、哨戒機(P-3C)12機、PAC-2の近代化改修およびPAC-3など与野党が合意した装備については米国からの購入に必要な予算が計上されている。台湾は新たにF-16C/D戦闘機、AH-64D攻撃ヘリなどの米国からの購入も希望しており、今後の動向が注目される。
 台湾は、独自の装備開発も進めており、天弓II地対空ミサイルや雄風II対艦ミサイルを配備しているほか、長距離攻撃能力の獲得のため雄風IIE巡航ミサイルを開発している。
 中台の軍事力の一般的な特徴については次のように考えられる。
1) 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。しかしながら、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力の向上に努力している。
2) 海・空軍力については、これまでは中国が量的には圧倒しているものの、質的には台湾が優位であったが、近年、中国の海・空軍力が着実に近代化されつつある。
3) ミサイル攻撃力については、中国は、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいと見られる。
 しかしながら、軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制などさまざまな要素から判断されるべきものであり、このような観点から、今後の中台の軍事力の近代化や、米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。中国は、軍事力の近代化を急速に進めており、中台の軍事バランスは中国側に有利な状態へと向かって変化しつつあり、近い将来にも台湾の質的優位に大きな変化を生じさせる可能性もある。


 
1)2008年版台湾「国防報告書」による。

 
2)2008年版台湾「国防報告書」による。


 

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