第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

第3節 中国


1 全般


1 全般


 中国は、14もの国と接する長い国境線と太平洋に面する長い海岸線に囲まれた広大な国土に世界最大の人口を擁する国家であり、また、国内に多くの異なる民族、宗教、言語などを抱える国でもある。少数民族の多くは国境地域に居住しており、国境外に同胞民族が居住していることも多い。中国は、長い歴史を有し、固有の文化、文明を形成、維持してきている。この中国特有の歴史に対する誇りと19世紀以降の半植民地化の経験が、中国国民の国力強化への強い願いとナショナリズムを生んでいる。さらに、中国は、社会主義体制をとる国家であり、中国共産党による指導の下、社会主義近代国家の建設を目指している。
 近年、中国は、貿易額を大幅に増大させ、外国からの投資も依然として活発であり、引き続き飛躍的な経済発展を遂げてきているが中国国内には各種の問題がある。中央および地方の共産党幹部などの腐敗問題が大きな政治問題となっているほか、急速な経済成長に伴い、都市部と農村部、沿岸部と内陸部の間の地域格差の拡大に加え、都市内部における貧富の格差や環境汚染などの問題も顕在化しつつあり、将来的には人口の急速な高齢化に伴う問題も予想されている。また、中国は、国内に少数民族の問題を抱えており、たとえば本年3月には、チベット自治区などにおいて少数民族の抗議活動に端を発した当局側との衝突が発生している。さらに、本年5月に四川省を中心とする地域に大きな被害をもたらした地震の発生や8月の北京オリンピック開催に伴い、中国国内の状況が国際的な注目を集めている。胡錦濤(こ・きんとう)政権は、「科学的発展観」を指導方針とし、「和諧(調和のとれた)社会」の構築を政策の基本路線として掲げており、以上のような国内の諸問題の解決に優先的に取り組む姿勢を見せている1。また、中国は、経済の安定した発展を持続させるため、外国への輸出や外国からの投資に依存し内需が不足するという経済構造の改善を目指している。
 中国は、国の安定を維持するため、外交面においては、米国やロシアなど大国との良好な関係を維持することによる戦略的な国際環境の安定、周辺諸国との良好な関係の維持と周辺諸国の情勢の安定や、エネルギー供給など経済発展に必要な権益の確保などを目指しているものと考えられる。
 軍事面では、継続する高い国防費の伸びを背景に軍事力の更なる近代化に努めている。中国は、台湾問題を国家主権と領土保全に関わる問題として特に重視しており、軍事力の近代化においても当面は台湾の独立などを阻止する能力の獲得を目指しているものとみられるが、中国は政治、経済的に地域の大国として着実に成長し続けているため、軍事に関しても、地域の各国がその動向に注目する存在となっている。


 
1) 「科学的発展観」は、「統一計画と各方面への配慮を堅持し、人を基本となすことを堅持し、全面的で調和の取れた持続可能な発展観念を打ち立て、経済・社会・人の全面的な発展を促進しなければならない」ことが主な内容とされている。(03年10月に開催された中国共産党第16期中央委員会第3回総会における胡錦濤総書記の発言)
「和諧(調和のとれた)社会」の構築とは、社会矛盾を解消し続けるプロセスであるとされている。(06(平成18)年10月、中国共産党第16期中央委員会第6回総会で採択された「社会主義の和諧社会を構築する若干の重大問題に関する党の決定」)


 

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