第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 対外関係


 北朝鮮は、対外関係の改善に努めてきたが、核問題やミサイル問題をめぐる一連の行動は、各国の懸念を高めている。
 米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた問題の解決を図ろうとしている。北朝鮮も、朝鮮半島の非核化は「金日成主席の遺訓」であるとして、「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を約束している。しかしながら、北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する「敵視政策」を放棄していないなどとして米国のさまざまな政策を非難し続けており、米朝の立場には依然隔たりが見られる。また、米国は、北朝鮮による核兵器・核関連物質の拡散の可能性や弾道ミサイルの開発・配備・拡散に関する懸念を繰り返し表明している。
 さらに、米国は、国別テロリスト報告書において、日本人拉致問題が未解決であること、北朝鮮が依然として「よど号」グループのハイジャック犯を匿(かくま)い続けていることを指摘25するとともに、北朝鮮を「テロ支援国家」に指定している26
 南北関係においては、核問題などにより国際社会の北朝鮮に対する懸念が高まっている中においても、昨年10月に7年ぶりとなる第2回南北首脳会談が開催されるなど、対話や経済面・人道面の交流が行われてきている。このうち軍事的な分野では、昨年11月に国防相会談が開催されたほか、同年には将官級の軍事当局者会談が3回にわたり開催され、開城(ケソン)工業地区などにおける通行・通信・通関の軍事的保障について合意するなど、南北協力事業に対する軍事的保障措置について協議の進展が見られた。しかしながら、韓国で李明博(イ・ミョンバク)政権が発足後、南北間の対話や交流に進展は見られていない。
 中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している。92(平成4)年に中韓の国交が樹立されてから、冷戦期の緊密さとは異なる事象も見られたが、その後、中朝首脳が相互訪問するなど、関係の進展が見られた。中国は、北朝鮮の核問題に対しては、朝鮮半島の非核化を支持する旨繰り返し表明しつつ、六者会合では議長役として合意の達成に貢献するなど、この問題の解決に向けて積極的な役割を果たしている。他方で、中国と北朝鮮との関係に一定の距離がみられつつあるという指摘もある。
 ロシアとの関係は、冷戦の終結に伴い疎遠になっていたが、関係改善の動きとして、00(同12)年2月、従前の条約と違い軍事同盟的な条項が欠落した27「露朝友好善隣協力条約」が署名されるとともに、同年7月にはプーチン露大統領(当時)が訪朝した。さらに、金正日国防委員会委員長が01(同13)年と02(同14)年に連続して訪露するなど、北朝鮮とロシアとの関係は緊密化してきた。
 また、北朝鮮は、99(同11)年来、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試みており、欧州諸国などとの国交の樹立やARF閣僚会合への参加などを行ってきた。他方、EUやASEANなどは、従来から北朝鮮の核問題などに懸念を表明している。
 北朝鮮の核問題の解決に当たっては、日米韓が緊密な連携を図ることが重要であることは言うまでもないが、六者会合の他の参加国である中国、ロシアなどの諸国や国連、IAEAといった国際機関の果たす役割も重要である。
 北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、核問題以外の安全保障上の懸念も忘れてはならず、朝鮮半島における軍事的対峙や北朝鮮の弾道ミサイル開発・配備・拡散などの動きにも、引き続き注目する必要がある。
 北朝鮮の政策や行動については、北朝鮮が、依然として閉鎖的な体制をとっているため、その動向を明確に把握することは困難であるが、その真の意図が何であるか見極めることが重要であり、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。


 
25)本年4月に発表された「2007年版国別テロリスト報告書」では、六者会合の過程で、米国が、北朝鮮による非核化の措置と並行して、また、米国内法の基準に基づき、北朝鮮のテロ支援国家指定の解除に関する約束を履行する意思を再確認したことについて触れられている。

 
26)本年6月26日、北朝鮮が核計画の申告を提出したことを受け、ブッシュ米大統領は、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除する意図を議会に通報した。

 
27)締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的またはその他の援助を与える旨の従前の条約に存在した規定がなくなった。


 

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