第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 内政


 近年、貧富の差の拡大や拝金主義的風潮による社会統制の弛緩(しかん)、軍の士気低下など、北朝鮮の体制に一定の揺らぎが見られるとの指摘もあるが、国家的行事22や他国との交渉が整斉と行われていることを踏まえると、北朝鮮では、金正日国防委員会委員長を中心とする統治が一定の軌道に乗っていると考えられる。
 経済面では、北朝鮮は、社会主義計画経済の脆弱性に加え、冷戦の終結に伴う旧ソ連や東欧などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、近年は、慢性的な経済不振、エネルギー不足や食糧不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている23。北朝鮮の住民の間には、多数の飢餓者の発生や規範意識の低下などが見られるとの指摘もある。
 こうした経済面でのさまざまな困難に対し、北朝鮮は限定的ながら現実的な改善策や一部の経済管理システムの変更も試みている。02(同14)年7月頃以降、給与と物価の引き上げ、為替レートの引き下げなどを行っているとみられている24。他方で、北朝鮮が現在の統治体制に影響を与えるような構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、さまざまな困難が伴うのではないかと考えられる。


 
22)たとえば、昨年4月、朝鮮人民軍創建75周年を祝賀するため、金正日国防委員会委員長の出席の下、ミサイル部隊の行進を含む大規模な閲兵式が行われた。

 
23)本年4月、国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)は、07年の穀物生産量を過去5年間平均よりも75万トン低い約300万トン、10月までの穀物不足量を166万トンと推定している。

 
24)これらの新たな施策に伴って、物資の供給不足のまま給与と物価を同時に引き上げたことによるインフレの進行、所得格差の拡大、情報の流入などによる体制への不満の増大などが一部で発生している、またはその徴候が見られるとの指摘がある。


 

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