第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 国防戦略


 米国は、このような安全保障環境における戦略目標として、1)直接攻撃からの国土防衛、2)戦略的アクセスの確保および地球規模での行動の自由の保持、3)同盟およびパートナーシップの強化、4)好ましい安全保障環境の構築をあげるとともに、その実現方法として、次の4点を指摘している。
1)同盟や防衛上のコミットメントを履行することにより、同盟国および友好国を安心させる。
2)米国の軍事的優位の維持・発展により、敵が脅威となり得る能力などを取得することを思いとどまらせる。
3)高い能力を備え、迅速な展開が可能な軍事力を維持するとともに、必要に応じて紛争を解決する強い意志を示すことにより、侵略や威圧を抑止する。
4)抑止が崩れた場合などには、必要に応じて、他の手段とともに軍事力を行使し、敵を打破する。
 さらに、「国家防衛戦略」は、これらの戦略目標を追求する際の指針として、以下の四つを示している。
1)積極的かつ重層的な防衛:米国に対する脅威は、被害が直接及ばない地域で早期に打破する必要がある。このため、安全保障協力、前方抑止、不拡散構想といった予防措置が極めて重要になる。しかし、これらの措置は米国のみで実施できるものではなく、同盟国などとの協力が欠かせない。また、ミサイル防衛などにより本土防衛の態勢を充実させることも必要である。
2)軍の変革(トランスフォーメーション)4の継続:米国がその優位を引き続き確保するためには、戦闘方法(戦争の概念、脅威の定義、作戦形態、組織、兵器体系)だけではなく、国防省の日常業務のあり方や政府関係機関・諸外国との協力について絶えず変革していく必要がある。
3)「能力ベース」アプローチの継続:今日の安全保障環境においては、米国に対する脅威がいつどこで出現するかは予測困難である。しかし、敵がどのような能力を用いて米国を攻撃するかは予測可能である。このため、敵の能力に対処するために、どのような能力が必要かに焦点を当てる。
4)リスク管理:限られた資源で戦略目標を追求する際に生じるさまざまなリスクを特定し、適切に管理する5


 
4)トランスフォーメーション・プランニング・ガイダンス(03(平成15)年4月)によれば、「トランスフォーメーションとは、米国の戦略的な地位を維持するため、米国の利点を生かすとともに非対称的な脅威から脆弱性を防護するように、概念、能力、人員および組織を新しく組み合わせることを通じ、変化しつつある軍事的競争・協力(関係)を形作る過程であって、世界の平和と安定の維持に寄与するもの」としている。

 
5)「国家防衛戦略」は、望ましい戦略目標が必ずしも実現可能ではない一方、実現可能な戦略目標もコストに見合わないことがあるなど、戦略目標と希少な国防資源の間にはトレードオフの関係が存在することから、01(平成13)年のQDRと同様に、両立することが容易でない以下の四つのリスクを慎重に管理するとしている。
1)作戦運用上のリスク:現有兵力により、許容できる範囲内のコストで戦略を実施する際に生じるリスク
2)将来的課題のリスク:予想される将来の課題に適切に対処できる能力を構築することに伴うリスク
3)戦力管理上のリスク:任務遂行に必要な戦力を管理するにあたって、募集、訓練、装備、即応性といった分野で生じるリスク
4)組織運営上のリスク:新たな業務手法や運営手法の導入によって生じるリスク


 

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