第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 イラクにおける多国籍軍の動向


 本年5月の時点で、イラク国内には、約15万人の米軍を含め、26か国の部隊などが展開し、治安対策や復興支援に当たっている。多国籍軍の活動に関する基本的な考え方は、イラク治安部隊が単独で治安維持活動を実施できるようになるまで多国籍軍の任務は必要であるというものである1。したがって、多国籍軍は、イラクに対する関与は無期限ではないとしつつも、活動を終了させる時期をあらかじめ設定することはできないとしている。総じていえば、イラク治安部隊の能力は向上しつつあるものの、同部隊が単独でイラクの治安と安定を維持できるようになるには、もうしばらく時間を要するとされている。
 他方、地域別に見ると、イラク治安部隊の能力向上や現地の情勢の改善などが進展した地域においては、多国籍軍からイラク当局への治安権限移譲も進んでいる。陸上自衛隊が人道復興支援活動などを実施していたイラク南東部のムサンナー県を皮切りに、これまで10県において治安権限が移譲された。
(図表I-1-3-1参照)
 
図表I-1-3-1 各国部隊の主な活動地域と治安権限委譲の状況

 こうした情勢の変化を踏まえ、多国籍軍はその部隊規模を変更してきている。米国は、本年4月、イラクにおける治安情勢の進展を受け、増強した部隊を本年7月末までに帰還させ、その後更なる部隊規模の削減について判断する前に、情勢評価のための時間を確保する旨発表した。また、英国は、昨年10月、イラク駐留英軍を約2,500人まで削減する旨発表したが、イラク南東部のバスラ県におけるイラク治安部隊と民兵組織との衝突などを受け、本年4月、更なる部隊の削減は一時停止し、当面約4,000人の部隊規模を維持すると発表した。
 昨年12月、国連安全保障理事会は、イラク駐留多国籍軍のマンデートを本年末まで延長する決議第1790号を採択したが、国連安全保障理事会に多国籍軍の駐留延長を要請した文書において、マーリキー・イラク首相は多国籍軍のマンデート延長を要請するのは今回で最後になると考えている旨表明した。これを踏まえ、今後の多国籍軍の駐留のあり方について、イラク政府と米国を中心に検討が進められている。


 
1)ハーシミー・イラク副大統領は本年3月18日の会見において、米軍が撤退すれば、治安の空白状況を招き事態はさらに悪化すると述べている。


 

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