第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

第3節 イラクをめぐる情勢など


1 イラクの治安情勢および治安対策


 イラクでは、06(平成18)年にイラク中部のサーマッラーで発生したシーア派の聖廟爆破事件を契機として宗派対立が激化したことなどから、バグダッドを中心に治安情勢が悪化し、政治プロセスの進展や経済復興の深刻な障害となった。これを受け、ブッシュ大統領はイラク政府との協議なども踏まえ、昨年1月、イラクに関する新政策を発表し、2万人以上の米軍を追加派遣するなどした。また、マーリキー・イラク首相は昨年2月にバグダッドを中心に新たな治安対策を開始した。
 イラクや米国などの努力もあり、昨年後半からは、攻撃の発生件数およびテロなどによる犠牲者数が減少するなど、改善傾向が見られる。特にイラク西部のアンバール県は、バグダッドと並び攻撃件数の多い地域であったが、大きく治安が改善した。こうした治安改善の要因としては、多国籍軍やイラク治安部隊の増強、住民の防護やテロリストの掃討を行う反乱対処作戦の実施、イラクの一部住民が姿勢を変更し、地域の治安に貢献するようになったことおよびシーア派指導者のサドル師による停戦宣言などが挙げられている1
 しかしながら、テロリストやイスラム過激派などは、簡易爆弾(IED:Improvised Explosive Device)や車両爆弾(VBIED:Vehicle-Borne Improvised Explosive Device)などを使用し、多国籍軍、イラク治安部隊および民間人への攻撃などを継続しており、イラクの治安情勢は依然として厳しく、今後も予断を許さない。また、周辺国からの影響も指摘されており、イランに関しては、イラク国内の民兵組織に対する武器や訓練の支援を行っているとの指摘がある。また、シリアに関しては同国政府の努力にかかわらず、イスラム過激派などが同国からイラクへ流入しているとの指摘がある2


 
1)ペトレイアス・イラク駐留多国籍軍司令官による議会証言(本年4月)

 
2)米国国家情報長官「年次脅威評価」(本年2月)


 

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