第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 世界各地で発生するテロの動向


 イラクでは、03(平成15)年の米英などの武力行使によるフセイン政権の崩壊以降、治安の悪化と不十分な国境管理によって、国外からテロリストが流入しているとみられており、米国などの軍人のみならず、イラクの一般市民や外国人を標的としたテロが頻発している。アルカイダ系武装組織などのテロ組織は、多国籍軍やイラク治安部隊による掃討作戦や、地域住民による対決姿勢などにより、攻撃能力が低下しつつあるが、これらテロ組織の活動は、引き続きイラク復興へ向けた取組の大きな障害の一つとなっている。

参照> 3節

 イラク周辺国においても、引き続きテロが発生している。トルコでは昨年5月から6月にかけて、アンカラやイスタンブール、エーゲ海沿岸のイズミルにおいて、反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」などによるとみられるテロ事件が発生している。同年10月にはイラク国境付近でPKKによるトルコ軍への攻撃が行われたのを受け、同年12月にトルコ軍がイラク北部にあるPKK拠点などに対する掃討作戦を開始した。レバノンにおいても、不安定な政情を背景として、昨年6月に国会議員暗殺テロ、同年12月にレバノン国軍ハッジ准将暗殺テロなどが発生した。
 アルジェリアにおいては、昨年、首相府などを狙った同時爆破、大統領暗殺未遂事件、海軍沿岸警備隊の兵営での自爆テロ、国連機関への爆破など、政府や軍を標的とするテロが相次いで発生しており、AQIMがこれらのテロに関して犯行声明を出している。さらに、同組織の活動範囲はアルジェリア国内にとどまらず、北アフリカ諸国でイスラム過激派を勧誘・訓練し1、その活動を北西アフリカからさらに拡大させようとしているとの指摘もされている2
 東南アジアは依然としてテロの脅威が存在している地域であるが、テロ組織の取り締まりなどに一定の進捗が見られる。インドネシアでは、02(同14)年から05(同17)年にかけてイスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI:Jemaah Islamiya)」が関与したとみられる大規模なテロが発生した3が、06(同18)年以降は、このような大規模なテロは発生していない。昨年はJIの最高幹部であるザルカシおよびアブ・ドゥジャナが逮捕されるなど、テロリストに対する取締りの面で一定の成果も見られる。フィリピンでは、共産主義勢力である新人民軍(NPA:New People's Army)が長年にわたり国内治安上最大の脅威になっている。フィリピン政府は、「モロ・イスラム解放戦線(MILF:Molo Islamic Liberation Front)」とは和平に向けた協議を継続する一方、「アブサヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」に対しては掃討作戦を行い、幹部の殺害や構成員の減少など、一定の成果をあげている。一方、タイ南部では、04(同16)年以降、イスラム系分離独立主義過激派による軍・警察施設などに対する襲撃や爆破・放火事件などが多発しており、事態は収まる兆しが見られていない。
 南アジアでも大規模なテロが発生している。特に昨年は、パキスタンにおいて、ブット元首相の暗殺や、政府機関および軍・警察などの治安機関を標的とするテロが多発した。本年に入ってからも、高等裁判所や海軍学校などで自爆テロが発生している。また、昨年、スリランカでは「タミル・イーラム解放の虎(LTTE:Liberation Tigers of Tamil Eelam)」によるとみられるテロが、コロンボ市内を中心に多発した。本年1月に、スリランカ政府とLTTEとの停戦合意が失効したことから、今後のテロ発生の増加が懸念される。
(図表I-1-1-1 参照)
 
図表I-1-1-1 世界の主なテロ(2007年5月−2008年5月)


 
1)米国国家情報長官「年次脅威評価」(本年2月)

 
2)昨年6月6日米下院外交委員会でのウェルチ米国務次官補(中東担当)の証言

 
3)たとえば、02(平成14)年10月、バリ島のクラブ2か所で、爆弾テロが発生し、202人が死亡した。また、05(同17)年10月、バリ島のレストランなどで、連続爆弾テロが発生し、23人が死亡した。


 

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