第III部 わが国の防衛のための諸施策 

2 沖縄における再編

 沖縄には、現在、多くの在日米軍施設・区域が所在している。
 特に、沖縄における米海兵隊(在沖米海兵隊)は、その高い機動性、即応能力により、わが国の防衛をはじめ、昨年5月のインドネシアのジャワ島における地震への対応など地域の平和と安全の確保を含めた多様な役割を果たしている。
 米国は、世界的な軍事態勢見直しの一環として、太平洋においても兵力構成を強化するための見直しを行っている。今後の安全保障環境において、事態の性質や場所に応じて、より柔軟かつ適切な対応を可能とするため、この地域における海兵隊の緊急事態への対応能力の強化や、これらの能力の適切な形での分配を行うとしている。この見直しにより、地域の諸国との安全保障協力の拡大が可能となり、安全保障環境が改善される。
 この海兵隊の再編との関連で、沖縄の負担を大幅に軽減することにもなる総合的な措置が、次のとおり特定されている。

(1)普天間飛行場代替施設

 米海兵隊普天間飛行場は、在沖米海兵隊の航空能力に関し、
1) ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能
2) 空中給油機を運用する機能
3) 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
といった機能を果たしている。
 一方で、同飛行場は市街地の中心にあって、地域の安全、騒音、交通などの問題から、地元住民より早期の返還が強く要望されてきた。このため、普天間飛行場の持つ機能について、それぞれ次の措置を講じ、同飛行場を返還する。

ア ヘリなどによる海兵隊の陸上部隊の輸送機能
(ア)SACO最終報告に基づく計画に関する状況
 96(同8)年12月に取りまとめられた「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO:Special Action Committee on Okinawa)最終報告において、普天間飛行場については、5〜7年の間に、十分な代替施設が完成した後、全面返還されることで合意された。

参照>本節6

 同報告以降の普天間飛行場代替施設(代替施設)に関する経緯は、図表III-2-2-10のとおりであり、02(同14)年には代替施設の基本計画が決定されたが、その時点で、返還合意以降6年以上を経過していた。その後、04(同16)年に環境影響評価手続きを開始したが、現在に至るまで、当初想定されていた5〜7年での返還は実現していない。
 
図表III-2-2-10 普天間代替施設に関する経緯

 また、基本計画策定後、工事着工に必要な手続きとして03(同15)年から実施してきた現地技術調査が必ずしも円滑に進まず、環境影響評価手続きなどにさらに3年程度を要すると見込まれたこと、および代替施設建設に9年半が必要と見積もられたことから、普天間飛行場の移設・返還には、さらに十数年近くの長期間を要することが見込まれた。
 さらに、04(同16)年8月の宜野湾(ぎのわん)市におけるヘリ事故の発生もあり、同飛行場が市街地のただ中に所在することによる危険性の問題が顕在化し、早期移設・返還が必須であることが改めて強く認識された。
 これらのことから、周辺住民の不安を解消するため、一日も早い移設・返還を実現するための方法について、在日米軍再編に関する日米協議の過程で改めて検討を行ってきた。

(イ)代替施設に関する検討の考え方
 在沖米海兵隊は、航空、陸上、後方支援の部隊や司令部機能から構成されており、実際の運用において、これらの機能が相互に連携し合うことが必要である。このため、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、訓練、演習など日常的に活動をともにするほかの組織の近くに位置するよう、普天間飛行場の代替施設についても、沖縄県内に設ける必要があるとの認識に至り、その上で検討を行った。
 なお、検討においては、近接する地域、軍要員の安全、地元への騒音の影響、藻場などの自然環境に対する影響、平時・緊急時における運用上の所要などを含む複数の要素を考慮した。

(ウ)代替施設の概要
 このような認識の下、日米間で集中的に検討した結果として、05(平成17)年10月の「共同文書」において、「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦(おおうら)湾の水域を結ぶL字型に普天間代替施設を設置する。」との案が承認された。
 その後、名護市をはじめとする地元地方公共団体との協議を行った結果、昨年4月、代替施設について、「共同文書」において承認された案を基本に、地元地方公共団体の要求する周辺地域の上空の飛行ルートを回避すべく、滑走路を2本設けることとし、1)周辺住民の生活の安全、2)自然環境の保全、3)同事業の実行可能性に留意して建設することに、名護市、宜野座村との間で合意した。今後、防衛省と沖縄県、名護市、宜野座(ぎのざ)村および関係地方公共団体は、代替施設の建設計画について誠意をもって継続的に協議し、結論を得ることとした。
 この合意を踏まえ、昨年5月の「ロードマップ」において、代替施設を「辺野古崎とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ」形で設置することとした。この施設においては、2本の滑走路がV字型に配置される。滑走路はそれぞれ1,600mの長さを有し、2つの100mのオーバーランを有する。各滑走路のある部分の施設の長さは、護岸を除いて1,800mとなるとしている。
 この施設は、合意された運用上の能力を確保するとともに、安全性、騒音および環境への影響という問題に対処するものであるとしている。
 この代替施設は、SACO最終報告において示されたとおり、普天間飛行場に所在するヘリコプターのほかに、短距離で離発着できる航空機の運用をも支援する能力を有するものとなる。この施設からの戦闘機の運用は計画されていない。
 さらに、代替施設をキャンプ・シュワブ区域内に設置するため、同区域内の施設および隣接する水域の再編成などの必要な調整が行われることとしている。
 この代替施設の工法は、原則として、埋立てとなり、14(同26)年までの完成が目標とされる。代替施設への移設は、同施設が完全に運用上の能力を備えた時に実施されることとしている。
(図表III-2-2-11参照)
 
図表III-2-2-11 普天間代替施設の概念図

 このように新たに合意された代替施設は、陸上部分をベースに工事を行うことができ、より早期かつ着実に建設することが可能であり、一日も早い移設の実現を可能とするものである。また、海上に設置する部分を少なくするなど、環境への影響にも極力配慮するものである。
 代替施設の建設にあたっては、昨年5月、沖縄県知事と防衛庁長官(当時)との間で、「政府案を基本として、1)普天間飛行場の危険性の除去、2)周辺住民の生活の安全、3)自然環境の保全、4)同事業の実行可能性に留意して、対応することに合意する。」ことなどを盛り込んだ「基本確認書」を取り交わした。
 
仲井眞沖縄県知事と面会する久間防衛大臣(本年1月)

 政府は、昨年5月30日の閣議決定において、同年5月1日に「2+2」会合において承認された案を基本として、政府、沖縄県および関係地方公共団体の立場や普天間飛行場の移設に係る経緯を踏まえて進めることとし、早急に建設計画を策定することとした。さらに、具体的な代替施設の建設計画、安全・環境対策および地域振興については、沖縄県および関係地方公共団体と協議機関を設置して対応することとしている2
 これを受けて、昨年8月から次のとおり、「普天間飛行場の移設に係る措置に関する協議会3」が累次行われている。
○ 第1回協議会(同年8月29日)
  同年5月30日の閣議決定に基づき、代替施設の具体的な建設計画、安全・環境対策および地域振興について協議するための協議会を設置
○ 第2回協議会(同年12月25日)
 ・官房長官の出席を得て開催。関係大臣の交代および仲井眞氏の新知事就任があったことにより、政府と地元の考え方について、それぞれ発言
 ・今後、本協議を継続し、普天間飛行場の移設が早期かつ円滑に進められるよう相互に努力していくことについて、意見が一致
○ 第3回協議会(本年1月19日)
 ・名護市長・宜野座村長との基本合意書、沖縄県知事との基本確認書の内容について確認するとともに、意見交換を実施
 ・今後、お互いの信頼関係を築きながら協議を継続し、普天間飛行場の移設が早期かつ円滑に進められるよう取り計らうことで一致
 また、代替施設の専門技術的設計に関する取組を進めるとともに、キャンプ・シュワブ沖での海域調査を本年4月に開始した。

イ 空中給油機を運用する機能
 現在、普天間飛行場に所在する空中給油機KC-130(12機)については、SACO最終報告において岩国飛行場に移駐するとされていたが、05(平成17)年10月の「共同文書」において、移駐先として海自鹿屋基地(鹿児島県)が優先して検討されるとされた。しかしながら、さらなる検討の結果、昨年5月の「ロードマップ」においてSACO最終報告と同様、岩国飛行場に移駐することとなった。
 なお、KC-130は、訓練および運用のため定期的にローテーションで鹿屋基地およびグアムに展開することとなっている。

ウ 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
 緊急時における空自新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県)および築城(ついき)基地(福岡県)の米軍による使用が強化される。このための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に必要に応じて実施される。また、役割・任務・能力に関する検討において、日米の共同訓練を拡大するとしているが、整備後の施設は、このような訓練活動のためにも活用されることを想定している。
 さらに、代替施設では確保されない、長い滑走路を用いた活動のため、緊急時における米軍による民間施設の使用の改善について、日米間の計画検討作業において検討されるとともに、普天間飛行場の返還を実現するための適切な措置がとられるとしている。

(2)兵力の削減とグアムへの移転

 アジア太平洋地域における米海兵隊の能力の再編に関連し、現在沖縄に所在する第3海兵機動展開部隊(IIIMEF:Marine Expeditionary Force)の要員はグアムに移転され、また、残りの在沖米海兵隊部隊は、再編される。この沖縄における再編により、約8,000名のIIIMEF要員とその家族約9,000名が部隊の一体性を維持するような形で14(同26)年までに沖縄からグアムに移転することとしている。
 移転する部隊は、IIIMEFの指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部および第12海兵連隊司令部を含む。対象となる部隊は、キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)および牧港(まきみなと)補給地区といった施設から移転する。一方、沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援および基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成されることとしている。
 グアムへの移転経費については、日米双方が応分の分担を行うとの観点から米国との協議を行い、昨年4月に行われた日米防衛首脳会談において、移転に伴う施設・インフラ整備に係る経費について合意に至った。
 具体的には、総経費102.7億ドルのうち、わが国は、将来回収可能な家族住宅やインフラ整備の出融資を含めて計60.9億ドル、米国は41.8億ドルをそれぞれ分担することとし、そのうち直接的な財政支出については、わが国は最大で28億ドル、米国は31.8億ドルとされた。

参照>本節5

(3)土地の返還および施設の共同使用

ア 嘉手納(かでな)飛行場以南の相当規模の土地の返還
 嘉手納飛行場以南の人口が集中している地域に、在日米軍施設・区域が所在しており、その合計は約1,500haである。上記の普天間飛行場の移設・返還およびグアムへのIIIMEF要員の移転に続いて、沖縄に残る施設・区域が統合され、嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる。
 昨年5月の「ロードマップ」では、6つの候補施設(キャンプ桑江(くわえ)、キャンプ瑞慶覧、普天間飛行場、牧港補給地区、那覇港湾施設、陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム)について、統合のための詳細な計画を作成するとしており、現在、日米間で協議中である。
図表III-2-2-8参照)

イ SACO最終報告の着実な実施
 96(同8)年のSACO最終報告は、在日米軍の能力および即応態勢を十分維持しつつ、沖縄県民に対する米軍活動の影響を軽減するものであり、その着実な実施は重要である。一方、SACOによる移設・返還計画については、昨年5月の「ロードマップ」により、再評価が必要となる可能性があるとされた。

ウ 沖縄における在日米軍施設・区域の共同使用
 沖縄における自衛隊施設は、那覇基地をはじめ限られており、その大半が都市部にあり、運用面での制約がある。沖縄にある在日米軍施設・区域の共同使用は、沖縄における自衛隊部隊の訓練環境を大きく改善するとともに、共同訓練や自衛隊と米軍間の相互運用性を促進するものである。また、即応性をより向上させ、災害時における県民の安全性の確保により資するものもある。
 このような考えの下、キャンプ・ハンセンは、陸上自衛隊の訓練に使用することとされている。また、空自は、地元への騒音の影響を考慮しつつ、米軍との共同訓練のために嘉手納飛行場を使用することとしている。

(4)再編間の関係
 昨年5月の「ロードマップ」においては、全体的な再編パッケージの中で、沖縄に関連する再編は、相互に結びついており、特に、嘉手納飛行場以南の統合および土地の返還は、第3海兵機動展開部隊(IIIMEF)要員およびその家族の沖縄からグアムへの移転にかかっている。また、沖縄からグアムへのIIIMEFの移転は、1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的な進展、2)グアムにおける所要の施設およびインフラ整備のための日本の資金的貢献にかかっているとされている。


 
2)これに伴い、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」としていた従来の閣議決定は廃止することとされた。(資料40参照)
 
3)構成員は、内閣府特命担当大臣(沖縄および北方対策)、防衛大臣、総務大臣、外務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣、農林水産大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣、沖縄県知事、名護市長、宜野座村長、東村長および金武町長

 

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