第III部 わが国の防衛のための諸施策 

(VOICE)防衛駐在官(ベルギー)として活躍する自衛官の声

防衛駐在官 1等空佐 長島 純(ながしまじゅん)
 
NATO理事会(本年1月12日:ブリュッセル)における長島1等空佐(後列左)

 ベルギー王国は、総面積約3万km2(日本の四国の面積の約1.5倍)にも満たない小国でありながら、欧州の中心に位置するという戦略的要衝であったために、1830年の独立まで周辺諸国の支配下に置かれ続けてきました。現在、その首都ブリュッセルにはEU、NATOの各本部が位置し、各国大使館や国際機関を含めると、ここで働く外交官の数は世界で一番多いとも言われ、現在では欧州の政治・安全保障の中枢としての地位を確立しています。
 そのために、ベルギー防衛駐在官としては、二国間関係の相手国としてのベルギーのみならず、欧州安全保障の核であるNATOやEUを含め当地に所在する各国際機関の情報収集・分析を行うことが最大の任務になっています。特に、近年、欧州では大規模侵攻の脅威は消滅する一方、地域紛争、国際テロリズム、大量破壊兵器拡散などが新たな安全保障上の重要課題として捉えられ、その軍事面での活動の幅が飛躍的に広がっています。例えば、NATOの場合、復興支援、治安維持、治安部隊への教育訓練などの目的で、約52,300人もの兵力を、アフガニスタン、コソボ、ダルフールなどの三大陸に派遣しています。
 その一方で、日本も、さまざまな地域で国際平和協力活動を行ってきており、自衛隊の活動は欧州においても大きな注目を集めるに至っています。さらに、防衛省への移行に伴ってそれらの海外活動が自衛隊の本来任務化とされたことで、日本と欧州が地理的枠組みを超えて世界の平和のために協力する分野は確実に増大してゆくでしょう。しかし、現在、欧州諸国のアジア地域全体への安全保障上の関心は、経済上の関心と比較すれば依然として低く、将来の日・欧間の安全保障上の協力を深化するためには、まず、お互いの地域情勢や防衛政策に関して正しい理解を深めてゆくことが不可欠と考えています。そのため、ブリュッセルに勤務する防衛駐在官としては、NATO、EU、その戦力提供者としてのベルギーに係る包括的な情報収集・分析に加え、欧州側の理解を促進するため、各国の武官や軍事代表とのレセプション等における接触から、彼らとの家族単位での交流に至るまで、あらゆる機会を活用して、日本を取りまく安全保障環境、日本の防衛政策、自衛隊の活動状況などを紹介し、具体的な日・欧間の安全保障面での協力のあり方を模索しています。これら防衛駐在官の恒常業務を通じた地道な活動と努力の積み重ねが、結果的に欧州から遠く離れた東アジアの安定と繁栄を増進してゆくと確信する次第です。

 

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