第III部 わが国の防衛のための諸施策 

3 災害対処への平素からの取組

(1)地方公共団体などとの連携

 自衛隊が、災害派遣活動を迅速かつ的確に行うためには、平素から地方公共団体などとの連携を強化しておくことが重要である。例えば、情報連絡体制の充実、両者の防災計画の整合化、地方公共団体が行う防災訓練への積極的な参加などがあげられる。
 昨年7月、各都道府県に所在する地方連絡部に新たに災害に関する地方公共団体との連絡調整機能を付加し、「国民保護・災害対策連絡調整官」を新設するとともに、地方連絡部の名称を「自衛隊地方協力本部」に変更し、平素からの連携の確保に努めている。

参照>4章1節

 また、地方公共団体の防災などの業務に対し、自衛官としての経験、知識などを活用した人的協力を行うことは、地方公共団体との連携を強化する上で重要であり、地方公共団体からの要請に応じ、当該分野に知見を有する退職自衛官の推薦などを行っている。こうした形で地方公共団体の防災関連部門などの担当として在職しているのは、本年4月30日現在、全国44都道府県市区町村に126名である。なお、東京都の防災担当部局に現職自衛官を出向させている。
(図表III-1-2-17参照)
 
図表III-1-2-17 退職自衛官の地方公共団体防災関連部局における在職状況(平成19年4月30日現在)

 さらに、都道府県が作成する地域防災計画において、災害時の自衛隊との連携について記述されているが、地方公共団体において、次に述べる点について、具体的に取り組むことは、防衛省・自衛隊が災害救援活動をより効果的に行う上で重要である。

ア 集結地の確保
 災害派遣部隊の現地における指揮所や宿泊・駐車・必要資材の集積などの活動拠点として、集結地が必要である。集結地は、被災地近くの公園やグラウンドなどが適しており、例えば陸自の1個連隊規模の部隊が宿泊して活動を行うのであれば、約15,000m2(東京ドーム約1/3個分の面積)、師団であれば約140,000m2(東京ドーム約3個分の面積)以上の広さが必要となる。
イ ヘリポートの確保
 災害時には車両による活動が制限される可能性があり、ヘリコプターによる救急患者輸送、物資輸送、消火活動のため、被災地やその近くにヘリポートを設置する必要がある。この際、ヘリコプターの円滑な離発着を確保するため、避難場所とヘリポートを明確に区分するとともに、平素から、その場所を住民に周知しておくことが必要である。ヘリポートの広さは、ヘリコプターの機種や活動内容によって異なるが、1機あたりの目安として、50〜100m四方が必要である。

ウ 建物の番号表示
 航空機が、情報収集、人員・物資の輸送などを効率的に行うため、空中から建物を確認しやすいように、県庁、学校など防災上重要な施設の屋上に、建物を識別するための番号を表示することは有効である。これにより、建物の確認が容易となり、航空機による災害派遣活動がより迅速となる。

エ 連絡調整のための施設などの確保
 自衛隊との連絡調整のための活動施設を都道府県庁内に設けることも必要である。例えば、連絡調整業務のための仮設の通信所、連絡官の待機所、車両の駐車場などが考えられる。また、避難所、ヘリポート位置などが記入された各防災機関が共通して使用する防災地図の整備が必要である。さらに、ヘリコプターによる空中消火のための消火器材などを整備するとともに、溜め池などの水源地の確保についても普段から調整しておく必要がある。

(2)各種災害への対応マニュアルの策定

 さまざまな形で起こり得る災害に、より迅速かつ的確に対応するため、あらかじめ対応の基本を明確にして、関係者の認識を統一しておくことが有効である。このため、00(同12)年11月、防衛庁(当時)・自衛隊は、過去の災害派遣や防災訓練で明らかになった教訓事項を踏まえ、災害の類型ごとの対応において留意すべき事項を取りまとめた各種災害への対応マニュアルを策定した4
 このマニュアルは、予想される災害の形態を1)都市部、2)山間部、3)島嶼部、4)特殊災害の4つに区分し、それぞれの場合ごとに、災害への対処方針、発生し得る被害様相、求められる主な活動、留意事項を定めている。このマニュアルは既に関係機関、地方公共団体などに配布されており、陸・海・空自衛隊は、防衛省防災業務計画とこのマニュアルに基づき、災害派遣活動のより一層の充実に努めている。

(3)原子力災害などへの対処

 99(同11)年、茨城県東海村のウラン加工工場で発生した臨界事故の教訓を踏まえ、原子力災害対策の抜本的な強化を図るという観点から、同年、「原子力災害対策特別措置法」が制定された。同法では、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)が緊急事態応急対策を的確かつ迅速に行うため、防衛庁長官(当時)に対して自衛隊の支援を要請することができると規定され、これに伴って、自衛隊法が一部改正された5
 東海村での臨界事故以降、経済産業省が主体となって00(同12)年から実施している原子力総合防災訓練では陸・海・空自衛隊が輸送支援、住民避難支援、空中と海上での放射線観測支援などを行い、原子力災害に際しての各省庁や地方公共団体との連携要領などを確認している。
 また、原子力災害のみならず、その他の特殊災害6に対処するため、19年度予算においても、化学防護部隊を強化することとしている。


 
4)「都市部、山間部及び島嶼部の地域で発生した災害並びに特殊災害への対応について」
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/keikaku/bousai/sankou_01.pdf>参照
 
5)1)原子力災害対策本部長の要請により、部隊などを支援のために派遣することができる。2)原子力災害派遣を命ぜられた自衛官が必要な権限を行使できる。3)原子力災害派遣についても、必要に応じ特別の部隊を臨時に編成することなどができる。4)原子力災害派遣を行う場合についても、即応予備自衛官に招集命令を発することができる。
 
6)特殊災害は、テロリズムや大量破壊兵器などによる武力攻撃によっても生じる可能性がある。

 

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