第III部 わが国の防衛のための諸施策 

2 災害派遣の初動態勢・実施状況

(1)災害に対する初動対処態勢

 阪神・淡路大震災の教訓から、自衛隊では、災害派遣を迅速に行うため、各自衛隊は、初動に対処できる部隊を指定している。本年5月現在、陸自は、災害派遣に即応できる部隊として全国に人員約2,700名、車両約410両、ヘリコプター約30機を指定している。海自は、応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しているほか、航空機の待機態勢を整えている。空自は、航空機の待機態勢などを整えている。
 また、自衛隊は、震度5弱以上の地震発生の情報を受けた場合、自主派遣として、速やかに航空機などを使用して現地情報を収集し、官邸などに、その情報を伝達できる態勢をとっている。さらに状況に応じ、関係地方公共団体などへ連絡要員を派遣して情報収集を行うこととしている。
 人命救助に関しても、陸・海・空自衛隊の各種装備を活用して、対処することが可能である。空自は、大規模災害時等において、重症患者を迅速に遠方地に搬送し、適切な治療を受けさせ得る態勢整備の一環として、昨年10月、航空機動衛生隊を新編した。

(2)災害派遣の実施状況

ア 救急患者の輸送
 自衛隊は、従来から医療施設が不足する離島などの救急患者を、航空機で緊急輸送している。昨年度は災害派遣総数812件のうち、579件がこの救急輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)、五島列島(長崎県)などへの派遣が543件と多数を占めた。
 その内訳は、高齢者の救急患者が最も多く、出産、事故に際しての緊急輸送もあった。また、他機関の航空機では航続距離不足などで対応できない場合には、本土から遠距離にある海域で航行している船舶の緊急患者の輸送も行っている。
 
利尻島から救急患者の輸送に協力する空自千歳救難隊(北海道)隊員(左2名)

イ 消火支援
 昨年度の消火支援件数は、117件であり、急患輸送に次ぐ件数となっている。
 その内訳は、近傍火災に対する派遣が最も多く、昨年度は104件であった。全国に所在する各部隊などは、周辺住民の生活の安全確保に寄与するためにも、近傍火災への対処に積極的に取り組んでいる。
 また、島嶼や山地など、消火が難しい場所では都道府県知事からの災害派遣要請を受け空中消火活動も行った。
(図表III-1-2-15・16参照)
 
図表III-1-2-15 災害派遣の実績(過去5年間)
 
図表III-1-2-16 災害派遣の実績(平成18年度)

ウ 自然災害への対応
 昨年度は、「平成18年7月豪雨」による全国的な水害、広島県の送水トンネル内の落盤に伴う断水や、3月の「平成19年能登半島地震」などの自然災害に見舞われた。主要な派遣は次のとおりである。

(ア)「平成18年7月豪雨」に伴う災害派遣
 昨年7月下旬、梅雨前線の影響による、九州および中部地方を中心とした集中豪雨に伴う河川の決壊、浸水、土砂崩れなどの被害に際して、福井、長野、京都、鹿児島、宮崎および熊本の各府県知事からの災害派遣要請を受け、行方不明者の捜索、土砂災害による人命救助、孤立住民の避難支援、堤防決壊の予防措置(土のう積み)、物資輸送などに、のべ人員約2,600名、車両約450両、航空機約50機を派遣した。

(イ)広島県呉市及び江田島市における給水支援等に係る災害派遣
 昨年8月25日、広島県安芸郡海田町と広島市安芸区間の県営送水トンネル内の岩盤が落下し、呉市及び江田島市の広い範囲で断水が発生した。広島県知事からの災害派遣要請を受け、給水支援や入浴支援などに、のべ人員約6,790名、車両約1,400両、艦船約40隻、航空機6機を派遣した。
 
広島県呉市及び江田島市の災害派遣(給水支援)において、海自輸送艦と連接する陸自給水車

(ウ)「平成19年能登半島地震」に伴う災害派遣
 本年3月25日、能登半島沖を震源とする地震(M6.9)が発生し、輪島市をはじめとする広域にわたり、家屋崩壊、土砂崩れ、断水などの被害が発生した。石川県知事からの災害派遣要請を受け、給水・給食支援に、のべ人員約2,730名、車両約1,050両、航空機約60機を派遣した。
 
「平成19年能登半島地震」における災害派遣で輪島市門前町において給水支援を行う陸自第14普通科連隊(石川県)隊員

 

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