第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 軍事態勢

1 核戦力

 戦略核戦力については、ロシアは、戦略核ミサイルの削減を徐々に進め、新型弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)の建造も当初の計画から遅延していると考えられる。しかし、ロシアは、依然として米国に次ぐ規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballisitic Missile)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballisitic Missile)を保有している。唯一の鉄道移動型ICBMであったSS-24は05(平成17)年までに全廃したが、他の旧式ICBMの耐用年数を延長している。核ミサイルの老朽化が指摘される一方で、ロシアは、新規装備の開発・導入の加速化に着手し、新型のICBM「トーポリM」の路上移動型の実験をすでに完了し、昨年、配備を開始したと発表している。また、新型のSLBM「ブラヴァ」の飛翔実験が05(同17)年9月に始まったが、昨年の飛翔試験は失敗だったとの指摘もあり、未だ配備には至っていないと考えられる。
 前述したモスクワ条約により、米露両国は、12(同24)年12月31日までに核弾頭を1,700〜2,200発まで削減することとされているが、費用問題も含め、核兵器の廃棄プログラムの進展状況について引き続き注目が必要である1。一方、米国によるABM条約の脱退を受けて、ロシアは、第2次戦略兵器削減条約(STARTII:Strategic Arms Reduction Treaty II)の無効を宣言し、多弾頭核ミサイルの廃棄を中止するなど、対抗手段を講じることを明らかにした。なお、昨年、ロシアは、第1次戦略兵器削減条約(STARTI)が09年に失効することを踏まえ、それに代わる新たな条約についての交渉の開始を提案した。
 非戦略核戦力については、ロシアは、射程500km以上、5,500km以下の地上発射型短距離および中距離ミサイルを中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)条約に基づき91(同3)年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管したが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有している。
 また、ロシア軍においては、通常戦力の装備の近代化を進めているものの、その進展が必ずしも十分でないことから、「コンセプト」、「ドクトリン」で核兵器の使用が詳述されているように、通常戦力の劣勢を補う意味で核戦力を重視しており、核戦力部隊の即応態勢の維持に努めていると考えられる。


 
1)02(平成14)年6月のカナナスキス・サミットで、G8は、大量破壊兵器拡散阻止のため、ロシアの化学兵器廃棄、退役原潜の解体、核分裂物質の処分などを支援する費用として、今後10年間で200億ドルを上限に拠出することを決定した。

 

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