第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 米国との関係

 米中間には、中国の人権問題や大量破壊兵器の拡散問題、台湾問題、貿易問題など、種々の懸案が存在している。また、中国は、米国のテロとの闘いを通じた国際的影響力の増大、中央アジアにおける米軍のプレゼンス増大や、米国の軍事態勢見直しに伴う同盟国などとの協力関係の強化に懸念を抱き、米国の「一極化」への動きを警戒していると見られる。他方で、両国経済の結びつきは深く、中国側として、安定的な米中関係は経済建設を行っていく上で必須であり、今後もその存続を望んでいくものと考えられる。
 米国としては、国際社会の平和と安定および自由で公正な貿易の拡大が、国際社会の多くの国々と同様、中国にとっても利益であるため、中国が、米国やその他の主要国と協力して、これら共通の利益を擁護する責任を有すると認識している。同時に、米国は、中国は戦略的岐路にある国家であり、長期的には、米国と競争関係になり、その軍事的優位を崩しかねない軍事技術を配備する潜在的能力が最も大きい国家と考えており、中国を国際社会における建設的なパートナーとなるよう働きかける一方、そうした働きかけが失敗した場合に備える必要があると認識している2。この様な認識の下、米国は、中国が引き続き経済的パートナーであるとともに、責任あるステークホルダー(responsible stakeholder)3となるよう働きかけることを対中政策の目標としている。
 これに対し、中国側は、胡錦濤国家主席が、咋年4月の訪米時に、米中両国は広範な戦略的利益を共有しており、米中間の建設的協力関係を引き続き推進する旨を表明しており、対米関係の安定を重視する姿勢を示している。
 米中間では、軍事面での交流も進展しており、05(同17)年10月にラムズフェルド国防長官(当時)が訪中し、昨年7月に中央軍事委員会の郭伯雄副主席が訪米している。また、同年4月にブッシュ大統領と胡錦濤国家主席との間で、戦略核政策などに関する対話を開始することを合意しており、米国側は中国の戦略ロケット部隊である第二砲兵司令員の訪米を受け入れる旨を表明している。
 訓練面においても、昨年6月に中国が初めて米軍の演習(米太平洋軍演習「バリアント・シールド」)へのオブザーバーを派遣し、米空母キティホークなどを見学した。また、9月に中国海軍の艦船がハワイおよびサンディエゴを訪問した際および同年11月に米海軍の艦艇が中国の湛江(たんこう)を訪問した際に、米中両国の海軍による共同訓練が行われた。
 米国は、中国との軍事交流の目的について、中国との相互理解を促進することおよびアジア太平洋地域において抑止と安定を維持する米国の決意を中国に伝えることによって紛争を予防することを挙げている4


 
2)「4年毎の国防計画の見直し」(QDR)(昨年2月公表)
 
3) 「責任あるステークホルダー」については、米国のゼーリック国務副長官(当時)が05(平成17)年9月のニューヨークにおける講演で使用して以来、米国政府の各種文書に引用されている。例えば、米国務省のファクトシート(昨年4月18日)によると、同副長官は、これまで中国の成功の助けとなる役割を果たしてきた国際システムを支えるため、中国が、米国やその他の主要国と協力することにより、国際社会における「責任あるステークホルダー」となるよう呼びかけたものと説明されている。
 
4)本年2月の米中経済安全保障再検討委員会におけるローレス国防副次官の証言

 

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