第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 ロシアとの関係

 89(平成元)年にソ連のゴルバチョフ書記長(当時)が訪中し、いわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は、継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに、両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、定例化した首脳往来を通じて同パートナーシップの深化が強調されており、01(同13)年には、中露善隣友好協力条約5が締結されている。04(同16)年には、長年の懸案であり、かつて両国間の軍事衝突にまで発展したことがある中露国境画定問題も解決されるに至った。
 両国は、こうした相互交流を通じて、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有してきたが、これに加え、近年では、経済的な動機も良好な中露関係の重要な牽引役となってきている。中国にとっては、安定的な資源・エネルギーの供給先を確保することは長期的な関心であり、ロシアとしても、中国市場の潜在力は魅力的であり、現在は資源・エネルギーに偏重する対中輸出を多角化することに強い関心を示している。
 安全保障面で、中国は、90年代以降、ロシアからSu-27、Su-30戦闘機、ソブレメンヌイ級駆逐艦、キロ級潜水艦などの近代的な武器を購入しており、中国にとって、ロシアは最大の武器供給国である。05(同17)年11月の日露首脳会談においては、小泉総理(当時)が、対中武器輸出は慎重に対処する必要がある旨指摘したのに対し、プーチン大統領は、ロシアは武器輸出のリーダーではないが、自らの責任は十分感じている旨応答した。昨年1月に額賀防衛庁長官(当時)が訪露した際にも、イワノフ国防大臣(当時)に対し、対中武器輸出については、透明性を確保し、地域の軍事バランスを崩さないよう、慎重な対応を要請した。
 また、中露間の軍事交流として、定期的な防衛首脳クラスなどの往来に加え、共同軍事演習の実施が挙げられる。05(同17)年8月に初めての中露共同軍事演習が中国の山東半島などで実施された。本年8月には、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)6加盟国による共同演習が、中国の蘭州軍区とロシアの沿ボルガ・ウラル軍管区で実施される予定である。中国としては、ロシアとの共同軍事演習を通じて両国軍の間の相互理解や信頼醸成を進めることおよび多極化世界の一つの極としての中露の存在を誇示することだけではなく、ロシア製兵器の運用方法やロシア軍の作戦教義などを学習することなどが可能になると考えられる。


 
5)同条約は、軍事面において、国境地域の軍事分野における信頼醸成と相互兵力削減の強化、軍事技術協力などの軍事協力、平和への脅威などを認識した場合の協議の実施などに言及している。
 
6)中国、ロシアおよび中央アジア4か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)で、01(平成13)年6月に設立された。同機構では、安全保障面のみならず、政治、文化、エネルギーなど広範な分野における各国間の協力を奨励することとされている。同機構の設立以来、定期的な首脳クラスの会合が開催されているほか、同機構の事務局や地域対テロ機構(RATS:Regional Antiterrorist Structure)の設置など、組織、機能の充実が図られてきている。

 

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