第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

第3節 イラクをめぐる情勢など

1 イラク新政府発足後の治安情勢
 昨年5月にイラク新政府が発足した後も、イラクの治安情勢については、依然として厳しい状況が継続している。いわゆるスンニ・トライアングル1および北部地域の一部を中心に、多国籍軍やイラク治安部隊などに対するテロなどが発生し、また、宗派対立が激しい状況である。特に宗派対立は、昨年2月にイラク中部のサマラで発生したシーア派の聖廟爆破事件を契機として激化し、バグダッドを中心にイラク民間人の犠牲者が急増するなど、イラクの安全と安定にとって大きな問題となっている。
 この背景としては、イスラム過激派などが、イラク政府による統治や多国籍軍による治安維持が失敗しているとの印象を内外に与えるとともに、宗派対立や民族対立をあおることにより政治的混乱を引き起こすため、テロなどを継続していることなどがあるとみられている。これにより、攻撃を受けた宗派の民兵組織が報復を行うなど、いわゆる「報復の連鎖」が発生しているとみられている。
 イラクで行われるテロなどは、簡易爆弾(IED:Improvised Explosive Device)や車両爆弾(VBIED:Vehicle-Borne Improvised Explosive Device)を使用した多国籍軍、イラク治安部隊および民間人への攻撃など、依然としてさまざまな形態で発生している。
 イラクの治安情勢に関しては、周辺国による影響も指摘されている。特に、イランに関しては、イラク国内の民兵組織に対する武器や資金の支援が行われており、シリアに関しては、フセイン政権の残存勢力やイスラム過激派などが同国からイラクへ流入しているとの指摘がある2


 
1)首都バグダッド、西部のラマーディ、北部のティクリート(サダム・フセインの生地)を結ぶ三角形を中心とした地域で、イスラム教スンニ派の住民が多く、旧フセイン政権を支持する者が多いとされている。
 
2)米国国家情報会議「イラク安定への展望」(07年1月)

 

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