3 自衛隊の活動
自衛隊は、イラク人道復興支援特措法成立までの間に、イラク難民救援国際平和協力業務、イラク被災民救援国際平和協力活動を行った。また、03(同15)年12月からは、イラク人道復興支援特措法に基づき、陸自及び空自部隊が、困難な状況におかれた住民のため、公共施設の復旧・整備や人員・物資の輸送などの支援を行い、イラクの自主的な国家再建に向けた取組に寄与してきた。
自衛隊による人的貢献と外務省所管の政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)による支援は、「車の両輪」として進められ、目に見える成果が生まれており、イラクをはじめとする国際社会から高い評価を得ている。
昨年6月、政府は、ムサンナー県において応急復旧的な支援措置が必要とされる段階は基本的に終了し、イラク人自身による自立的な復旧の段階に移行したものと判断し、陸自部隊の撤収を決定した。
一方で、国連事務総長から要請のあった国連に対する空輸支援や、多国籍軍に対する空輸支援を引き続き継続するため、現在も空自部隊が活動中である。
(1)航空自衛隊の部隊による活動
空自部隊は、03(同15)年12月以降、C-130H輸送機3機、人員約200名の派遣輸送航空隊を順次派遣して、04(同16)年3月以降、陸自派遣部隊への補給物資、医療器材など、わが国からの人道復興関連物資、関係国・関係機関が行っている人道復興関連の物資・人員などを空自C-130H輸送機により輸送してきた。
04(同16)年4月には、自衛隊法第84条の3(旧100条の8)の規定に基づく初めての邦人輸送として、サマーワに滞在していた報道関係の在留邦人10名を、イラクのタリル飛行場からクウェートのムバラク空軍基地まで輸送した。
陸自部隊撤収後も、国連および多国籍軍等のニーズに応えるべく活動を継続し、国連が活動するバグダッドやエルビルに対する空輸も含めて、国連および多国籍軍への支援を実施し、引き続きイラクの復興および安定に協力している。本年5月10日までの輸送実績は、輸送回数505回、輸送物資重量約524トンである。
(2)連絡官などの派遣
イラク人道復興支援特措法やテロ対策特措法に基づく自衛隊の活動を行う上で必要な情報収集や各種調整を行うため、米国フロリダ州の米中央軍司令部やバグダッドの多国籍軍司令部に連絡官などが派遣されている
2。連絡官などは、派遣先において、活動地域の情勢などの情報収集や、人員・物資の受け入れ、物資の調達・輸送などの連絡調整業務を行い、現地で活動する部隊の円滑かつ効率的な運用に寄与している。現在は米中央軍司令部に統合幕僚監部(統幕)が連絡官を派遣している。また、バグダッドなどの多国籍軍司令部には空自が連絡班を派遣している。
(3)陸上自衛隊の部隊の撤収
昨年6月20日、政府は、イラク・ムサンナー県における、復興・治安の両面において、応急復旧的な支援措置が必要とされる段階は基本的に終了し、国際社会と連携してのイラク国民の復興努力の支援という陸自の活動目的を達成したと判断し、同地で活動する陸自部隊を撤収することを決定した。
これを受け、同年6月27日、防衛庁(当時)・自衛隊は、陸自部隊の撤収に必要な輸送調整などの業務を行うため、後送業務隊
3(約100名)をサマーワ及びクウェートに派遣し、後送業務を開始した。同年7月25日、第10次イラク復興支援群が、また同年9月9日には、後送業務隊が帰国し、約2年半に及ぶ陸上自衛隊の活動を終えた。
(図表III-3-1-5参照)
ア ムサンナー県における陸自部隊の活動
陸自部隊は、04(同16)年1月、第1次イラク復興支援群及びイラク復興業務支援隊を派遣して以降、約2年半にわたりサマーワにおいて医療、給水、公共施設の復旧・整備などの各種活動を行った。
派遣開始から撤収までの間、のべ約5,600人の隊員が医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備などの人道復興支援活動等に取り組み、ムサンナー県で生活する人々の生活基盤の整備や、雇用の創出など、さまざまな面で成果をあげた。
陸自部隊は、イラク復興の主人公はイラク国民自身であるとの認識の下、常にイラク国民に敬意を表し、誠実に、現地の人々の目線に立った活動に努め、イラク国民からの信頼と支持を得、一件の人的被害も受けることなく、無事に任務を終えた。
(図表III-3-1-6参照)
イ 陸自部隊のイラク人道復興支援活動を効果的に実施することができた要因
陸自部隊およびその活動は、派遣先国政府を含め国内外において非常に高い評価を得ており、多くの国民の支持を得ている。これは、国防という基本的な任務を果たすために整えてきた人材や装備、日々の厳しい訓練を通じて培ってきた自衛隊の技能や経験、そしてこれまでの各種国際平和協力活動の教訓などが、十分に生かされたものであった。
特に次に示す事項は、今回の陸自部隊の人道復興支援活動を効果的に実施することができた要因であったと考えられる。
1) 迅速かつ的確な現地情勢・ニーズの把握と適切な派遣地域の選択ができたこと。
2) 現地のニーズに対し、自衛隊による人的貢献にODAなどを組み合わせた効果的な支援を行うことができたこと。
3) 派遣隊員に対する福利厚生やメンタルヘルスのための施策に十分配慮したこと。
4) サマーワの人々との交流を通じ、地元住民との良好な関係を構築することができたこと。
5) 諸外国の防衛担当組織などとの対等で友好的な関係の構築ができたこと。
本年1月、国際平和協力活動が本来任務に位置付けられ、防衛省・自衛隊は、今後さらに、国際平和協力活動に主体的かつ積極的に取り組んでいくこととしており、今回の活動で得た経験は、大きな成果と言える。
参照>II部3章1節
2)米中央軍司令部に所在する「不朽の自由作戦(OEF)」および「イラクの自由作戦(OIF)」に参画する約60か国の連絡官からなるコアリッション・グループに、統幕から2名の自衛官が派遣されている。
3)陸自部隊の撤収に伴う後送業務(検数・検量、通関、洗浄、燻蒸(くんじょう)など)を行う部隊