2 わが国の周辺の安全保障環境
アジア太平洋地域では、中国やインドなど、急速な経済発展を遂げている国が見られ、経済面を中心として、この地域への世界的な関心が高まるとともに、域内各国間の連携・協力関係の充実・強化が図られてきている。他方で、この地域は、政治体制や経済の発展段階、民族、宗教など多様性に富み、また、冷戦終結後も各国・地域の対立の構図が残り、さらには、安全保障観、脅威認識も各国によってさまざまであることなどから、冷戦終結に伴い欧州地域でみられたような安全保障環境の大きな変化はみられず、依然として領土問題や統一問題といった従来からの問題も残されている。
朝鮮半島においては、半世紀以上にわたり同一民族の分断が継続し、南北双方の兵力が対峙する状態が続いている。また、台湾をめぐる問題のほか、南沙(なんさ)群島をめぐる領有権の問題なども存在する。さらに、わが国について言えば、わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題が依然として未解決のまま存在している。
特に、北朝鮮の核・弾道ミサイルの問題は、より深刻なものとなっている。北朝鮮は、昨年7月に弾道ミサイル発射を強行し、10月には地下核実験の実施を発表した。これらはわが国のみならず国際社会の平和と安全に対する重大な脅威と認識され、国際社会はこれを強く非難するとともに、国連安保理決議の採択など断固たる対応をとった。本年2月の六者会合において、「共同声明の実施のための初期段階の措置」が採択され、非核化に向けた重要な第一歩を踏み出したが、今後の北朝鮮側の出方を含め核問題の行方については引き続き注視していく必要がある。また、北朝鮮による日本人拉致問題は、わが国の国民の生命と安全に大きな脅威をもたらす重大な問題であるが、依然未解決であり、北朝鮮側の誠実な対応が求められる。
さらに、この地域の多くの国は、経済成長を背景として、国防費の増額や新装備の導入など軍事力の拡充・近代化を行ってきている。特に、今日、政治的・経済的に地域の大国として重要な影響力をもつ中国は、継続する高い国防費の伸びを背景に軍事力のさらなる近代化を推進していることから、軍事面においても、各国がその動向に注目する存在になっている。また、中国の軍事力に関しては透明性の欠如が懸念されている。本年1月に中国が弾道ミサイル技術を応用して自国の人工衛星を破壊する実験を実施した際にも、中国側より十分な説明はなされず、宇宙の安全利用および安全保障上の観点からわが国を含む各国の懸念を惹起した。
(図表I-0-0-1参照)
加えて、最近では、東南アジア地域におけるテロや海賊行為などの問題が地域の安全保障に深刻な影響を及ぼすようになっている。インドネシア、フィリピンやタイでは、テロ組織や分離独立勢力によるとみられるテロが起きており、また、国際的に重要な海上交通路であるマラッカ海峡やシンガポール海峡などは、海賊行為などの多発地域となっており、これに対する各国共同の取組が行なわれている。
以上のように、今なお不透明・不確実な要素が残されているアジア太平洋地域においては、米軍のプレゼンスは依然として非常に重要であり、わが国をはじめ各国が、米国との二国間の同盟・友好関係を構築し、これらの関係に基づき米軍が駐留するなどしている。
他方、近年、この地域では、域内諸国の二国間軍事交流の機会の増加がみられるほか、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)や民間機関主催による国防大臣参加の会議など、多国間の安全保障対話の努力が定着しつつある。地域の安定を確保するためには、米軍の安定的なプレゼンスとともに、こうした各国間の信頼醸成措置をさらに促進・発展させていくことも重要である。