第3章 わが国の防衛のための自衛隊の運用と災害派遣や国民保護 

(VOICE)防衛駐在官の勤務状況(イスラエル)

 04(平成16)年から在イスラエル大使館に防衛駐在官として派遣されている深澤英一郎1等空佐に、任地イスラエルの印象や勤務の様子を聞きました。

防衛駐在官  1等空佐  深澤英一郎(ふかざわえいいちろう)

 イスラエルは、四国と同じくらいの大きさで、埼玉県の人口にも満たない人々が住む小さな国です。また、抜けるような青空が印象的で、エルサレムに代表される美しい史跡に満ちた大変すばらしい土地であり、街々には家族と安寧を愛する人々の暮らしがあります。またUNDOF(兵力引き離し監視隊)の展開するゴラン高原産のワインは非常に有名で、日本でも広く販売されているそうです。
 しかし、中東のイスラエルは日本から物理的に遠い国のためか、様々な誤解を往々にして見受けます。例えばイスラエルの週末は金曜と土曜ですが、特に土曜日は単なる休日以上の意味を持った宗教上の安息日であり、労働が禁じられています。このため、この日に仕事など強要すれば、感情的なもつれにまで発展しかねません。宗教と国民生活が密接につながっているという一点だけでも、日本とイスラエルには大きな違いがあります。だからこそ、当地における紛争を見るにつけ、対立する双方に各々の正義があり、その根深さと複雑さを実感せざるを得ません。
 このため私は、自衛官としての軍事的な知識と経験を活かし、日本とイスラエルの互いの国情や政策の違いにも留意しながら、わが国の安全保障に資する情報の収集や分析を行っています。
 イスラエルは、周囲を信条の異なる国々に囲まれた環境であるため、安全保障は、何よりも重要な要素です。そのため今でも徴兵制を維持しており、大多数の国民は軍での勤務を経験しています。また、先の湾岸戦争でイラクのスカッドミサイルの被害を受けた経験から、弾道ミサイルへの対処には早くから取り組み、「アロー・ミサイル」を米国と共同で開発したほか、予備役の軍人を主体として、大規模な被害への対応を専門とする民間防衛軍を設けるとともに、個人住宅を含む全ての建物にシェルターの設置を義務づけるなど、緊急事態への施策も整備されています。同時に、国境地帯の安定にも大きな関心を払っており、当地のメディアでも国境地帯に展開する国際組織の様子がしばしば取り上げられます。中でもゴラン高原のUNDOFはとりわけ高い評価を受けています。
 UNDOFへの自衛官の参加は本年1月で10周年を迎え、これまでに約900名がここでの勤務を経験しました。ゴラン高原で任務につく彼らの顔は、ここでの勤務の間に、例外なく自信に満ち、立派な国際PKO部隊の一員の表情になっているのが印象的です。こうした自衛官による中東の平和への貢献は、広くイスラエルの人々にも感謝されているところであり、同じ自衛官として実に誇らしく感じています。
 
ガザを視察する深澤1等空佐(右端)
 
エルサレム旧市街(「岩のドーム」と「嘆きの壁」)

 

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