第2章 わが国の防衛政策の基本 

2 有事法制に基づく措置など


 03(平成15)年6月に成立した武力攻撃事態対処法においては、じ後、同法に示された枠組みに基づいて、個別の有事法制を整備することにより、国民の生命などの保護、武力攻撃が国民生活などへ及ぼす影響を最小にするための措置、武力攻撃を排除するために必要な自衛隊や米軍の行動を円滑かつ効果的にするための措置などを講ずるものとされた。また、こうした個別の有事法制は、国際人道法の的確な実施が確保されたものでなければならないとされた。
 これを受けて政府は、04年(同16)年3月、有事法制関連7法案および関連3条約を国会に提出し、これらは同年6月に成立・締結の承認がされた。これにより武力攻撃事態への対処に必要な措置などが取られる枠組みが整備された。その概要は以下のとおり。
(図表2-3-2・3参照)
 
図表2-3-2 武力攻撃事態などへの対処に関する法制の全体像
 
図表2-3-3 有事法制のイメージ

(1)国民の生命などの保護、国民生活などへの影響の最小化のための措置
 国民保護法1が制定され、その中で、武力攻撃事態等における国民の生命などの保護、国民生活などへの影響の最小化に関する、国、地方公共団体などの責務、国民の協力、住民の避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置その他の必要な事項が定められた。また、緊急対処事態においても同様の措置が実施できることとされた。
参照> 3章4節

(2)武力攻撃事態等を終結させるための措置
ア 自衛隊の行動の円滑化など
 海上輸送規制法2が制定され、武力攻撃事態に際して、わが国領海又はわが国周辺の公海における外国軍用品等(武器など)の海上輸送を規制するための措置が実施できることとなった。

イ 米軍の行動の円滑化など
(ア)米軍行動関連措置法3が制定され、武力攻撃事態等において、日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な米軍の行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置などについて定められた。
(イ)日米物品役務相互提供協定(ACSA)4が一部改正され、同協定の適用範囲が、武力攻撃事態等への対処、国際の平和・安全に寄与するための国際社会の努力、災害対処などにも拡大されるとともに、自衛隊法の一部改正も行われ、これらの活動を実施する米軍に対し、自衛隊側から物品・役務の提供が実施できることとなった。

ウ その他(港湾施設、飛行場施設、道路などの利用調整)
 特定公共施設利用法5が制定され、これにより自衛隊の行動や米軍の行動、国民の保護のための措置などの的確かつ迅速な実施のため、武力攻撃事態等における特定公共施設等(港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域および電波)の利用に関し、その総合的な調整が図られることとなった。

(3)国際人道法の的確な実施の確保
ア 捕虜取扱い法6が制定され、武力攻撃事態における捕虜などの取扱いにあたって、常に人道的な待遇を確保するとともに、捕虜などの生命、身体、健康および名誉を尊重し、これらに対する侵害または危難から常に保護するための制度が構築された。

イ 国際人道法違反処罰法7が制定され、国際的な武力紛争において適用される国際人道法に規定する「重大な違反行為」が適切に処罰されることとなった。

ウ このほか、主要な国際人道法であるジュネーヴ諸条約8第1追加議定書9およびジュネーヴ諸条約第2追加議定書10が締結され、上記の個別の有事法制などにより必要な国内実施が行われることとなった。


 
1)武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律

 
2)武力攻撃事態における外国軍用品の海上輸送の規制に関する法律

 
3)武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律

 
4)日本国の自衛隊とアメリカ合衆国軍隊との間における後方支援、物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定を改正する協定(ACSA)(4章3節参照)

 
5)武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律

 
6)武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律

 
7)国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律

 
8)ジュネーヴ諸条約は、1)戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第1条約)、2)海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第2条約)、3)捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第3条約)、4)戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第4条約)、からなる。

 
9)千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)

 
10)千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書II)


 

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