第2章 わが国の防衛政策の基本 

2 防衛力のあり方


(1)防衛力の役割
 防衛大綱においては、新たな安全保障環境を踏まえて、
1) 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応
2) 本格的な侵略事態への備え
3) 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取り組み
を防衛力の役割としており、それぞれの分野において実効的にその役割を果たし得るものとし、このために必要な自衛隊の体制を効率的な形で保持するものとしている。
 なお、07大綱においては、各自衛隊の体制の維持を明記しているが、新たな安全保障環境においては、さまざまな事態の特性などに応じて実効的に対応できる防衛力を構築することが求められており、新たな自衛隊の体制は、各自衛隊ごとに別個に導かれるというよりは、統合運用を基本とした事態対応から導き出されるものであるとの考え方に基づき、防衛大綱では、「防衛力の役割」の項目において、事態ごとにその果たすべき役割・対応や自衛隊の体制の考え方などを包括的に明示している。
 
市街地戦闘訓練を行う陸自第46普通科連隊(広島県)隊員

ア 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応
 防衛大綱において示された新たな脅威や多様な事態への考え方は、次のとおりである。
 新たな脅威や多様な事態は、予測困難で突発的に発生する可能性があるため、事態の特性に応じた即応性や高い機動性を備えた部隊などをその特性やわが国の地理的特性に応じて編成・配置することにより、これらに実効的に対応する。また、事態が発生した場合には、迅速かつ適切に行動し、警察、海上保安庁などの関係機関との間では状況と役割分担に応じて円滑かつ緊密に協力し、事態に対する切れ目のない対応に努める。
 新たな脅威や多様な事態のうち、主なものへの対応は次のとおりである2

(ア)弾道ミサイル攻撃への対応
 弾道ミサイル攻撃に対しては、03(平成15)年12月に導入を決定したBMDシステムの整備に着手しており、当該システムの整備を含む所要の体制を確立し、実効的に対応する。
 わが国に対する核兵器の脅威については、米国の核抑止力とあいまって、BMDに関する取り組みにより適切に対応する。
参照> 3章2節1

(イ)ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応
 ゲリラや特殊部隊による攻撃は、その予測が困難であり、事態が発生した場合は迅速に対処してその拡大防止を図ることが必要である。このため、部隊の即応性を高め、併せて機動性の向上を図り、迅速に部隊を集中して対処するなど、状況に応じて柔軟に対応するものとし、事態に実効的に対応し得る能力を備えた体制を保持する。
参照> 3章2節2

(ウ)島嶼部(とうしょぶ)に対する侵略への対応
 多くの島嶼を有しているとの地理的特性から、わが国に対する武力攻撃の形態の1つとして島嶼部に対する侵略が想定される。
 こうした侵略に対しては、部隊を機動的に海上・航空輸送し、展開させ、精密誘導攻撃などによる実効的な対処能力を備えた体制を保持する。
参照> 3章2節3

(エ)周辺海空域の警戒監視および領空侵犯対処や武装工作船などへの対応
 新たな脅威や多様な事態に実効的に対応するには、早期にその兆候を把握することが、その未然防止や事態発生時の拡大を防ぐために極めて重要である。このため、周辺海空域における常続的な警戒監視は引き続き自衛隊の重要な役割であり、そのための艦艇や航空機などによる体制を保持する。
 また、領空侵犯に対して即時適切な措置を講ずるものとし、そのために必要な戦闘機部隊の体制を保持する。さらに、北朝鮮の武装工作船事案や中国原子力潜水艦によるわが国の領海内潜没航行事案を踏まえ、周辺海域における武装工作船、領海内で潜没航行する外国潜水艦などに適切に対処する。
参照> 3章2節4
 
航行する潜水艦「たかしお」

(オ)大規模・特殊災害などへの対応
 わが国は、地震、台風、火山噴火などによる自然災害が発生しやすい環境下にあり、また、原子力災害やテロによる災害など特殊な災害に対しては、自衛隊の能力の活用が必要な場合もある。
 こうした状況において、国民の安全を確保することは極めて重要な役割であり、大規模災害や特殊災害など人命又は財産の保護を必要とする各種事態に対しては、国内のどの地域においても災害救援を実施し得る部隊や専門能力を備えた体制を保持する。
参照> 3章2節5

イ 本格的な侵略事態への備え
 わが国に対する本格的な侵略事態が生起する可能性は低下する一方、新たな脅威や多様な事態への実効的な対応、国際的な安全保障環境を改善するための主体的・積極的な取り組みが新たな防衛力に求められている。
 こうした安全保障環境を踏まえ、防衛大綱では、いわゆる冷戦型の対機甲戦、対潜戦、対航空侵攻を重視した整備構想を転換し、本格的な侵略事態に備えた装備・要員について抜本的な見直しを行い、縮減を図ることとしている。
 同時に、防衛力の本来の役割が本格的な侵略事態への対処であり、また、その整備が短期間になし得ないことにかんがみ、本格的な侵略事態に対処するための最も基盤的な部分を確保する。
参照> 3章3節

ウ 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組
(ア)国際平和協力活動への主体的・積極的な取組
 07大綱では、「より安定した安全保障環境の構築への貢献」が防衛力の役割とされ、国連平和維持活動をはじめ、さまざまな国際平和協力活動に取り組んできた。
 こうした国際平和協力活動について、国際社会の平和と安定が脅かされるような状況は、わが国の平和と安全の確保に密接に関わるとの認識の下、防衛大綱では、「貢献」という位置付けではなく、わが国の平和と安全をより確固たるものとすることを目的として、主体的・積極的に取り組むこととした。
 国際平和協力活動は、その範囲は非常に幅広く、自衛隊のみならず、文民の活動などの諸施策を通じ、外交と一体のものとして政府全体として統合的に取り組む必要がある。自衛隊は、政府全体の取り組みの中で、自己完結性、組織力などの能力を生かして国際平和協力活動に適切に取り組むため、教育訓練体制、所要の部隊の待機態勢、輸送能力などを整備し、迅速に部隊を派遣し、継続的に活動するための各種基盤を確立する3こととしている。
 また、国際平和協力活動に適切に取り組むため、自衛隊の任務における同活動の適切な位置付けを含め所要の体制を整えることとされた。
 
小牧基地に待機するC-130H輸送機

(イ)安全保障対話・防衛交流の推進など
 各種の二国間・多国間訓練を含む安全保障対話・防衛交流については、安全保障環境の変化、さらには、わが国の国際平和協力活動の効果的な実施に資するという点も踏まえつつ、引き続き、推進していく必要がある。これに加え、国連を含む国際機関などが行う軍備管理・軍縮分野の諸活動について協力を引き続き実施するなど、国際社会の平和と安定に資する活動を積極的に推進することが必要である。

(2)防衛力の基本的な事項
 上記の役割を防衛力が果たすため防衛力の基本的な事項として、防衛大綱では、以下のものがあげられている。

ア 統合運用の強化
 新たな安全保障環境の下、新たな脅威や多様な事態に速やかに対応し、自衛隊の任務を迅速かつ効果的に遂行するためには、当初から各自衛隊を一体的、有機的に運用する統合運用体制を強化することが必要である。
 統合運用体制へ移行するため、自衛隊の運用に関する長官の補佐機構として統合幕僚監部の新設が盛り込まれた。また、その実効性を高めるとともに、教育訓練、情報通信などの各分野において統合運用基盤を確立することとされた。その際、統合運用の強化に併せて、既存の組織などを見直し、効率化を図ることとしている。

イ 情報機能の強化
 多機能で弾力的な実効性のある防衛力を機能させるためには、各種事態の兆候を早期に察知するとともに、迅速・的確な情報集約・共有など、高度な情報能力の保有とその十分な活用が不可欠である。
 このように、情報能力は、単なる支援的要素ではなく、防衛体制の基本の1つとして位置付けることが適当である。このため、安全保障環境や技術動向などを踏まえた高度で多様な情報収集能力や、総合的な情報分析・評価能力などの強化を図るとともに、当該能力を支える情報本部をはじめとする情報部門の体制を充実することにより、高度な情報能力を構築することとしている。

ウ 科学技術の発展への対応
 多機能で弾力的な実効性のある防衛力を実現するためには、情報・科学技術の進歩に伴う各種技術革新の成果を的確に反映させることが必要である。特に、内外の優れた情報通信技術に対応し、先に述べた統合運用の推進に不可欠となる確実な指揮命令と迅速な情報共有を進めるとともに、運用および体制の効率化を図るため、高度な指揮通信システムや情報通信ネットワークを構築することとしている。

エ 人的資源の効果的な活用
 限られた人的資源でより多くの成果を達成するためには、自衛隊の任務の多様化・国際化、装備の高度化などに対応し得るよう、質の高い人材の確保・育成を図るべく、必要な教育訓練を実施する必要がある。
 また、安全保障問題に関する研究・教育を推進するとともに、その人的基盤を強化する4こととしている。


 
2)新たな脅威や多様な事態には、テロ攻撃や武装工作員の侵入、外国潜水艦によるわが国領海での潜没航行なども含まれる。また、サイバー攻撃や在外邦人などの輸送の実施なども、新たな脅威や多様な事態への対応の一部として考えられる。

 
3)具体的な体制については、5章1節参照

 
4)中期防において、防衛庁のシンクタンクである防衛研究所の安全保障政策に係る研究・教育機能の充実を図ることとしている。


 

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