第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

8 オーストラリア


 オーストラリアは、日本、韓国とともに米国にとってアジア太平洋地域における重要なパートナーと位置付けられている。また、たとえば東ティモール問題や03(平成15)年7月のソロモン諸島の問題への対応に見られるように、この地域の安全保障問題の解決に積極的に参画している。
 オーストラリアは、00(同12)年12月、今後10年の国防方針を提示した「国防2000−将来の国防力」を発表し、軍の任務として、第一に自国を防衛すること、第二に隣国の安全保障へ貢献すること、第三に隣国を越えた領域で危機に対処するための国際的な合同軍へ効果的に貢献し、これによりオーストラリアの広範な利益を守り、目的を達成することをあげている。その後、オーストラリアは、9.11テロや02(同14)年10月のインドネシア・バリ島での爆弾テロ事件の影響を踏まえ、国防戦略を見直し、03(同15)年2月、テロや大量破壊兵器に対処するための国防軍の遠隔地における活用機会の増大などを柱とする「オーストラリアの国家安全保障:国防最新報告2003」を発表した1。昨年12月には、2000年白書および03年最新報告において示された戦略原理を基に、「オーストラリアの国家安全保障:国防最新報告2005」を発表した。同報告は、テロ、大量破壊兵器の拡散、破綻国家への対応がオーストラリアの安全保障戦略の優先課題であると指摘している。オーストラリアが通常型の軍事的脅威に直面する可能性は引き続き低いとしつつ、イラクやアフガニスタン等の国際的安全保障問題に対処する軍事的能力の必要性は継続するだろうとの見通しを提示している。また、同報告は、グローバル化の進展が安全保障政策上の意思決定に大きな影響を与えていること、北東アジアをはじめとするアジア太平洋地域諸国が軍事能力を拡大していることなどを踏まえ、オーストラリアは、多機能で柔軟、かつ、政府の他の部門と容易に連携し得る防衛力を構築すること、および、国際貢献を通じ、地域と地球規模の双方において強力な安全保障関係を構築することが必要であるとしている。オーストラリア国防省は、同最新報告に併せ、陸軍のネットワーク化などを柱とする今後10年間の陸軍増強計画を発表した。
 オーストラリアは、米国との同盟関係を重視し、ANZUS条約(Security Treaty between Australia, New Zealand and the United States of America2)を締結しており、「タリスマン・セーバー」(旧称「タンデム・スラスト」)演習などの共同訓練を行うとともに、毎年、外相・国防相による閣僚協議を行っている3。また、9.11テロを受けて、同年10月以降、米軍への支援のため、艦艇、航空機、特殊部隊などの派遣を行った。03(同15)年3月に始まったイラクに対する軍事作戦に際しても、艦艇、航空機、特殊部隊などを派遣し、現在も、イラクでの復興支援活動に対して1,320人規模の部隊を維持している。オーストラリア軍は、サマーワにおいて、英軍とともに当地で活動する自衛隊の警備にあたっている。他方、03(同15)年12月、オーストラリアは、米国の主導するミサイル防衛計画への参加を決定したが、具体的な参加形態については議論が続いている。また、04(同16)年8月には、新型防空駆逐艦の戦闘システムを米国製イージス・システムにすることを決定した。なお、04(同16)年7月には、オーストラリア国内における米・オーストラリア合同訓練施設の拡充にも合意した。
 そのほか、マレーシア、シンガポール、英国、ニュージーランドとの間の「5か国防衛取極め」(71(昭和46)年発効)に基づき、共同訓練などを行っている。また、国連東ティモール支援団(UNMISET:United Nations Mission of Support in East Timor)などの国連平和維持活動に参加した。
 インドネシアとの間では、02(平成14)年10月のバリ島での爆弾テロ発生後、インドネシアの対テロ能力向上のための協力を行っている。さらに、04(同16)年9月にジャカルタのオーストラリア大使館前で爆弾テロ事件が発生したことを受けて、両国は、対テロ協力の重要性を改めて強調した。また、昨年4月、ユドヨノ・インドネシア大統領のオーストラリア訪問に際し、両国は「包括的パートナーシップに関する共同宣言」4を発表した。
 昨年12月には、地域におけるテロ対処能力の向上のため、オーストラリアは、インドネシアとの間で特殊部隊間の共同訓練の再開を決定した5


 
1)04(同16)年2月には以後10年間の防衛力整備計画となる「国防能力計画2004-2014」を発表。同計画では、新型戦車の導入による陸上兵力の向上、大型水陸両用戦闘艦や新型防空駆逐艦の導入による海外派遣能力の向上や米国とのインターオペラビリティの強化などに主眼が置かれている。

 
2)52(昭和27)年に発効したオーストラリア・ニュージーランド・米国間の三国安全保障条約。ただし、ニュージーランドが非核政策をとっていることから、86(同61)年以来、米国は対ニュージーランド防衛義務を停止している。01(平成13)年9月、9.11テロを受けて、オーストラリアはANZUS条約に定められた集団的自衛権を発動し、同10月、オーストラリア軍は部隊派遣を行った。

 
3)86(昭和61年)年に米国がニュージーランド防衛義務を停止して以降、毎年開催

 
4)同共同宣言では、政治、経済、安全保障、人的交流、地域における協力など幅広い分野における両国間のパートナーシップの構築について合意するとともに、「安全保障協定」の締結についても合意した。

 
5)99(平成11)年9月から昨年4月まで、東ティモール問題への対応をめぐり、両国間の防衛交流は停止されていた。


 

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