第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 ロシア


(1)全般
 ロシアでは、ソ連崩壊後、国民の多くの期待にもかかわらず、混乱と混迷の状況におちいったことから、「強い国家」こそが秩序と安定をもたらすとするプーチン大統領の政策が国民に支持されている。同大統領は、自由、繁栄、豊かさ、強さ、文明を国家目標として、ロシアの国益を追求する外交を推進し、各国と活発な首脳外交を行っている。
 プーチン大統領は、2期目の大統領就任式で、内政重視の方針を明確にし、社会改革を進めている。一方、地方首長の直接選挙制廃止など中央集権体制の再構築の動きも見られる。また、経済面では、99(平成11)年以降、主要輸出品目である原油などの国際市場価格の値上がりにより、好調な傾向が継続している1。しかし、ロシア経済は、エネルギー資源の輸出に依存しており、国民全体の生活水準も必ずしも十分ではないことから、経済の構造改革などの政策が進められている。

(2)国防政策
ア 安全保障政策と国防政策
 ロシアには、00(平成12)年1月に改定2した「ロシア連邦国家安全保障コンセプト」がある。この中で、現在の世界情勢について、ロシアをはじめとする国々などによる多極的な世界の形成を推進する趨勢(すうせい)と、西側諸国による支配を確立しようとする趨勢という2つの趨勢があるとしている。他方、ロシアは、国際社会における大国の1つであり、その国益の実現は、安定した経済発展を基盤としてのみ可能であるとした上で、独立、主権および領土の防護などを軍事的な国益としている。これに対する国内外の脅威として、国際テロ、国連などの役割を低下させようとする動き、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)の東方拡大3などを指摘し4、西側諸国におけるハイテク兵器の増大などとあいまって、ロシアの安全保障の弱体化につながっているとしている。このような認識の下、あらゆる規模の侵略を未然に防止するため、抑止のための措置を講じ、そのために核戦力を保有するとしている。
 この「コンセプト」の下、ロシア国防政策の基本理念として同年4月に策定された「ロシア連邦軍事ドクトリン」の中では、大規模戦争発生の危険性と直接侵略の脅威は低減しているが、潜在的な国内外の脅威は存続し、一部ではむしろ増大する傾向にあるとしている。こうした認識の下、侵略の抑止、戦争・武力紛争の未然防止、国際安全保障と全面的平和の維持を国防の目的と位置付けている。核兵器については、核兵器などが使用された場合のみならず、通常兵器による大規模侵攻に対する報復などのためにも使用する権利を留保するとしている。なお、02(同14)年に発生したチェチェン武装勢力によるモスクワ市劇場占拠事件以後、国家全体で安全保障態勢を見直す動きが高まり、プーチン大統領は、国家安全保障コンセプトの見直しを国防相らに指示しているが、本年6月末現在、発表されていない。
 さらに、上記「コンセプト」および「ドクトリン」の方針を具体化した文書と位置付けられる03(同15)年に発表された「ロシア連邦軍整備の緊急課題」では、軍の運用について、テロ対策には主体的には対処しないとする一方、平時におけるさまざまな作戦5の実施など、国家防衛以外にも軍が使用される可能性などが指摘されている。このほか、ロシアの領土の広さから、常時即応部隊6の戦域間機動の重要性も指摘されている。
 なお、本年5月、プーチン大統領は、年次教書演説で、信頼性ある核戦力の維持・増強に努めるとともに、軍改革を進めると述べている。

イ チェチェン問題
 ロシアは、99(同11)年、チェチェン武装勢力のダゲスタン共和国への侵入などを契機とし、この勢力に対して、連邦軍による武力行使を開始した(第二次チェチェン紛争)。02(同14)年4月の年次教書演説でプーチン大統領は、「既に軍事的段階は終了」との認識を示したが、その後も武力行使は行われた。
 このような中、同年10月にはチェチェン武装勢力によるモスクワ市劇場占拠事件、04(同16)年9月には北オセチア共和国での学校占拠事件が発生するなど、武装勢力側のテロ活動が頻発した。プーチン大統領は、武装勢力掃討作戦を徹底し、独立国家共同体(CIS:Commonwealth of Independent States)、NATOなどとも対テロ協力を推進している。また、テロ対策を効率的に進めるため、本年3月、新たなテロ対策法が制定されている。
 一方、チェチェン共和国内では、03(同15)年に政治的安定を目指した共和国憲法草案が承認された。昨年には共和国議会選挙が実施され、連邦政府によるチェチェン安定化のための施策が進められている。また、チェチェン共和国に展開しているロシアの兵力は削減され、最近、大規模な武力衝突は発生していない。しかし、チェチェン武装勢力は完全には排除されておらず、依然予断を許さない状況にある。

ウ 軍改革
 ロシアでは、ソ連崩壊後の軍再編は、全般的に遅れていたが、97(同9)年と01(同13)年に軍改革に関する大統領令が署名され、兵員の削減と軍種の統合、新型装備の開発・導入を含む軍の近代化、即応態勢の立て直しなどが進められてきている。機構面では、3軍種3独立兵科制への移行7、参謀本部地上軍総局の廃止と地上軍総司令部の復活8、空軍と防空軍の統合、地上軍航空隊の空軍への移管9、軍管区の統合などが行われ、ほぼ完了に近づいている。兵員については、削減はほぼ終わりに近づき、今後大きな削減は予定されていない10。一方、軍人の質的向上を図り練度の高い軍を維持するために、徴兵ではなく契約により採用しようとする契約勤務制度の導入が進められている。さらに、近年国防予算の増加傾向が続き、本年度の国防予算では名目で対前年度比約25%の予算増加が決定され、装備の近代化が継続されている。このように、国内外の脅威に対処するため、ロシアは、今後も、軍の効率化や近代化、即応態勢の向上などに努めていくものと考えられる。

(3)対外関係
ア 米国との関係
 米国との関係は、テロとの闘いにおける協力などを通じて、さまざまな分野において進展した11
 弾道ミサイル防衛を推進する米国による02(平成14)年6月の対弾道ミサイル・システム制限(ABM:Anti-Ballistic Missile)条約からの脱退に対し、ロシアは、米国のABM条約脱退の決定は誤りであるとはしたものの、ロシアの安全保障上の脅威とはならないと受け止めている。
 米露両国は、02(同14)年5月24日に署名され、翌年6月に発効した戦略攻撃能力削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)により、12(同24)年12月31日までに核弾頭数を1,700〜2,200発に削減することとなっている。また、同条約では、核戦力の構成と構造は、各国がこの上限内で独自に決定するものと規定されている。
 一方、米国は、ロシアの内政面の動向などについて懸念を表明するようになっている12

イ 独立国家共同体(CIS)との関係
 ロシアは、自国の死活的利益がCISの領内に集中しているとし、ウクライナ、グルジア、モルドバ、アルメニア、タジキスタンとキルギスにロシア軍を駐留させるとともに、モルドバとグルジアに平和維持部隊を派遣し、また、CIS諸国との間で共同防空システム創設協定、国境共同警備条約を結ぶなど、軍事的統合を進めてきた13
 中央アジア・コーカサス地域においては、イスラム武装勢力の活動の活発化に伴い、テロ対策を中心とした軍事協力を進め、01(同13)年5月、CIS安全保障条約機構の枠組みにおいて合同緊急展開部隊を創設14した。9.11テロ発生後、米国などのアフガニスタンへの軍事行動が開始されると、ロシアは、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、グルジアにおける米軍などの駐留や援助を容認する一方、03(同15)年にはCIS合同緊急展開部隊を強化するため、キルギス領内に空軍基地を開設した15。また、ロシアは、タジキスタンにも1個師団(約8,000人)を駐留させていたが、04(同16)年10月にはタジキスタンと協定を締結し、同国内にロシア軍基地を確保した。
 一方、03(同15)年から04(同16)年にかけて新政権が誕生したグルジアおよびウクライナは、ロシアとの関係を重視しつつも、欧米との関係強化を目指し、将来的なNATOへの加盟の意思を表明している。昨年5月グルジアでは、ロシアとの交渉の結果、同国領内に所在しているロシア軍基地を08(同20)年中に閉鎖することが決定された。さらに、ウクライナでロシア黒海艦隊の駐留が継続された場合、これは、同国のNATO加盟の障害となり得る。
 
図表1-2-13 CIS加盟諸国

ウ NATOとの関係
 ロシアは、旧ソ連諸国と中東欧諸国のNATOへの新規加盟については、原則として、反対姿勢を維持してきている。一方、特に9.11テロ後は、NATOとの新たな協力関係を構築しようとする動きを見せ、共同行動を追求するためのメカニズムとして、02(同14)年5月、NATO・ロシア理事会が設立された。この理事会の枠組で、ロシアは、一定の意思決定に参加し、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動することとなった16

エ アジア諸国との関係
 ロシアは、現在、シベリアの石油を極東方面に運ぶパイプラインの事業化計画やサハリンの天然ガス開発などを進めている。ロシアにとっては、これらの地下資源の開発や地域の経済・社会基盤活性化のためにも、わが国や中国などのアジア太平洋地域の国々との経済関係の強化が重要である。このため、ロシアは、対外政策においてもアジア太平洋地域の国々との関係を重視し、アジア太平洋経済協力(APEC:Asia-Pacific Economic Cooperation)会議、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)、上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization)などの地域的な枠組みへ参加してきているほか、04(同16)年、東南アジア友好協力条約(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)に加入した17。また、プーチン大統領は、00(同12)年の大統領就任以来、中国、インドの首脳と毎年相互訪問を継続するなど、アジアの国々と活発な首脳外交を行っている。さらに、ロシアは、地域の平和と安定がロシアにとっても重要であることから、朝鮮半島問題などの地域問題解決に積極的に関与していくとしている18

オ 武器輸出
 ロシアの武器輸出は、近年、その輸出額が大幅に増加しているが、その目的として、「ドクトリン」の中では、軍事産業基盤の維持、経済的利益のほかに、政治的影響力の確保といった外交政策への寄与もあげられている。この中で、軍需産業は、国家の軍事組織に含まれると位置付けられている。
 ロシアは、中国、インド、ASEAN諸国などに戦闘機や艦艇などを輸出し19、また、01(同13)年には北朝鮮、イランとの間で軍事技術協力に関して合意している。なお、旧ソ連各国から核兵器などの大量破壊兵器に関連する物資や技術、知識・技術を有する人材などの流出の可能性が国際的に懸念されている。

(4)軍事態勢
ア 核戦力
 戦略核戦力については、ロシアは、戦略核ミサイルの削減を徐々に進め、新型弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)の建造も当初の計画から遅延していると考えられる。しかし、ロシアは、依然として米国に次ぐ規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballisitic Missile)と潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballisitic Missile)を保有している。唯一の鉄道移動型ICBMであったSS-24は昨年までに全廃したが、ほかの旧式ICBMの耐用年数を延長している。核ミサイルの老朽化が指摘される一方で、ロシアは、新規装備の開発・導入の加速化に着手し、新型のICBM「トーポリM」の路上移動型の実験をすでに完了し、近い時期に配備する予定であると発表している。また、新型のSLBM「ブラヴァ」の飛翔実験が昨年9月に初めて行われ、その配備が07(平成19)年頃から開始されることも明らかにされている。
 前述したモスクワ条約により、米露両国は、12(同24)年12月31日までに核弾頭を1,700〜2,200発まで削減することになるが、今後は、費用問題も含め、核兵器の廃棄プログラムが順調に進展していくかどうかが注目される20。一方、米国によるABM条約の脱退を受けて、ロシアは、第2次戦略兵器削減条約(STARTII:Strategic Arms Reduction Treaty II)の無効を宣言し、多弾頭核ミサイルの廃棄を中止するなど、対抗手段を講じることを明らかにした。
 非戦略核戦力については、ロシアは、射程500km以上、5,500km以下の地上発射型短距離および中距離ミサイルを中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)条約に基づき91(同3)年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去し、陸上に保管したが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有している。
 また、ロシア軍においては、通常戦力の装備の近代化を進めているものの、その進展が必ずしも十分でないことから、「コンセプト」、「ドクトリン」で核兵器の使用が詳述されているように、通常戦力の劣勢を補う意味で核戦力を重視しており、核戦力部隊の即応態勢の維持に努めていると考えられる。

イ 通常戦力など
 通常戦力については、90(同2)年以降、量的削減が行われてきたが、限られた資源を優先的に一部の部隊に投入し、その即応態勢の維持に努めようとする動きがみられる21
 しかし、低劣な軍人の生活環境、軍の規律の弛緩(しかん)、広範な徴兵猶予や免除などの結果、人材確保難といった問題もあり、旧ソ連時代のような軍の活動水準を維持していくことは困難22であると考えられる。
 ロシア軍の将来像については、国内の不透明な政治・経済情勢もあり、軍改革の今後の動向について引き続き注目していく必要がある。しかしながら、見通し得る将来において、ロシア軍が冷戦時代のような規模・態勢に戻る可能性は低いと考えられる。

(5)わが国の周辺のロシア軍
ア 全般
 極東地域のロシア軍の戦力は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、地上兵力約9万人23、艦艇約270隻、作戦機約630機が配備されるなど、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在している。訓練活動などの減少傾向は、下げ止まり、近年は微増しつつある。なお、同地域では、03(同15)年以降、大規模な対テロ演習である「ボストーク2003」や「ボストーク2005」、常時即応部隊によるロシア西方から極東地域への機動展開演習である「モビリノスチ2004」などの演習が実施された。
 部隊の充足率については、軍改革に伴って部隊数が削減されたことから、結果として向上しつつあると考えられるが、即応態勢を維持しているのは戦略核部隊、常時即応部隊などに限られるため、一般の部隊についても、即応態勢の向上に努めている模様である。
 極東地域のロシア軍の将来像については、ロシア軍全般が常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を重視する傾向にあることや、国内の政治・経済情勢に依然として不透明な部分が多いことから、ロシア軍全般の将来像と同様、その動向について、引き続き注目しておく必要がある。しかしながら、見通し得る将来において極東地域のロシア軍が冷戦時代のソ連軍のような規模・態勢に戻る可能性は低いと考えられる。その背景としては、米国との軍事的緊張関係の緩和により太平洋での軍事的プレゼンスを強調する必要性が低下したことや、中国との関係改善が図られた結果、同国に対する軍事的警戒の必要性が低下したことなどがあげられる。
 
図表1-2-14 わが国に近接した地域におけるロシア軍の配置

(ア)核戦力
 極東地域における戦略核戦力については、SS-25などのICBMや戦略爆撃機Tu-95MSベアーがシベリア鉄道沿線を中心に配備され、SLBMを搭載したデルタIII級SSBNなどがオホーツク海を中心とした海域に配備されている。これら戦略核部隊については、即応態勢がおおむね維持されている模様である。02年(平成14年)に米露間で署名されたモスクワ条約が、極東地域の戦略核戦力にどのような影響を与えるのか注目される。
 非戦略核戦力については、極東地域のロシア軍は、中距離爆撃機Tu-22Mバックファイア、海上(水中)・空中発射巡航ミサイルなど多様な装備を保有している。バックファイアは、バイカル湖西方、樺太対岸地域および沿海地域に約70機配備されている。

(イ)陸上戦力
 極東地域の地上軍の兵力は、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にあり、現在、15個師団約9万人となっている24
 また、海軍の太平洋艦隊については、揚陸艦艇は減少しているものの、減少は下げ止まりの傾向にある。海軍歩兵師団を擁しており、水陸両用作戦能力を有している。
 
図表1-2-15 極東地域のロシア軍の地上兵力の推移

(ウ)海上戦力
 海上戦力については、太平洋艦隊がウラジオストクやペトロパヴロフスクを主要拠点として配備・展開されており、主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約15隻)、約28万トンを含む艦艇約270隻、合計約65万トンで、90(同2)年以降、その規模は縮小傾向にある。
 
図表1-2-16 極東地域のロシア軍の主要海上兵力の推移

(エ)航空戦力
 航空戦力については、空軍、海軍を合わせて約630機の作戦機が配備されている。その作戦機数は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、既存機種の改修による能力向上が図られている。
 
図表1-2-17 極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(戦闘機)
 
図表1-2-18 極東地域のロシア軍の航空兵力の推移(爆撃機)

イ 北方領土におけるロシア軍
 ロシアが不法に占拠するわが国固有の領土である北方領土のうち国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島と色丹(しこたん)島に、旧ソ連時代の78(昭和53)年以来、ロシアは、地上軍部隊を再配備してきたが、近年、人員数は減少傾向にあり、現在は、ピーク時に比べ大幅に縮小した状態にあると考えられる。しかし、この地域には、依然として戦車、装甲車、各種火砲、対空ミサイルなどが配備されている。北方領土の地上軍に関しては、93(平成5)年にエリツィン大統領(当時)が訪日した際、四島駐留軍の半数を既に撤退させ、国境軍を除き残りの半分も必ず撤退させる旨公式に表明した。また、90年代後半には、日露間の各種公式協議の場で、北方領土駐留ロシア軍が削減されている旨の発言がロシア側より繰り返しなされた。北方領土の兵員数については、91(同3)年には約9,500人が配備されていたとされているが、97(同9)年の日露防衛首脳会談において、ロジオノフ国防相(当時)は、北方領土の部隊が95(同7)年までに3,500人に削減されたことを明らかにした。しかし、昨年7月、北方領土を訪問したイワノフ国防相は、四島に駐留する部隊の増強も削減も行わないと発言し、現状を維持する意思を明確にした。
 このように、わが国固有の領土である北方領土へのロシア軍の駐留は依然として継続しており、早期の北方領土問題の解決が望まれる。

ウ わが国の周辺における活動
 わが国の周辺におけるロシア軍の活動は、演習・訓練を含め、全般的には低調であるが、復調の兆しもみられる。
 地上軍については、わが国に近接した地域における演習はピーク時に比べ大幅に減少しているが、一部に活動活発化の兆しもみられる。
 艦艇については、近年、数年ぶりに潜水艦や水上艦艇の長期航海訓練が実施され、原子力潜水艦のパトロールが再開されるなど、訓練などの活動に変化の兆しがみられる。
 航空機については、わが国への近接飛行や演習・訓練などの活動は、下げ止まりつつあると考えられる。


 
1)昨年の経済成長率は6.4%であった。

 
2)97(平成9)年に策定された「ロシア連邦国家安全保障コンセプト」を00(同12)年1月に改定した。これは、NATO拡大、ユーゴ連邦共和国への空爆、NATOのいわゆる「新戦略概念」の発表やロシア内外でのイスラム過激派の台頭などの情勢変化に対応するためになされたものである。

 
3)NATO拡大に対するロシアの姿勢には、「国家安全保障コンセプト」が策定された当時と比較して変化がみられる。これまで、プーチン大統領やイワノフ国防相は、NATO拡大を懸念する発言を繰り返す一方、最近はNATOとの協力推進を重視する旨表明している。また、昨年4月には、ロシアとNATOとの間で、双方の軍が互いの領土を通過することなどを可能にする地位協定が調印された。

 
4)ロシアに対する脅威としてこのほか、多極化世界の中心の1つとしてのロシアの弱体化を図る試み、独立国家共同体(CIS)統合プロセスを弱体化させる動き、ロシアに対する領土要求などを指摘している。

 
5)平時における作戦として、国際テロリズムとの闘い、破壊活動の予防・阻止、戦略抑止能力の使用準備態勢の維持と使用、国連またはCISの委任による平和創設作戦、非常事態の予防とその被害の復旧などが列挙されている。

 
6)ロシア連邦軍発足以後の兵力削減の中、部隊の再編により、人員を集中させて即応性を高めた部隊。大規模戦争の初期段階や小規模紛争に即戦力として迅速に対処することが期待されており、具体的には、ほかの部隊との共同による危機への緊急対応、国境の防備、平和創設作戦への参加を任務としている。高い人員および装備の充足率の下、24時間以内の作戦開始、平時編成のままの作戦遂行、10〜15日以内の他正面への機動などが目指されている。地上軍の一部、空挺兵および海軍歩兵の大部分、海・空軍の戦闘部隊、戦略ロケット部隊など高い専門能力を要求される部隊が常時即応部隊として編成され、それぞれ師団級または連隊級の規模を持つとされる。02(平成14)年11月の軍指導者会議で、イワノフ国防相は、「現在408個の連隊級の常時即応部隊があり、これらの部隊で12万6,000人の兵・下士官および4万人の将校・准尉が勤務している」と発言している。また、04(同16)年1月、クワシニン参謀総長(当時)は、「常時即応部隊は、50万人の兵力を有している」と発言している。

 
7)97(平成9)年の大統領令により、同年末までにABMを運用する防空軍のロケット・宇宙防衛部隊と宇宙飛翔体の打ち上げおよび管制を担当する宇宙軍を、ICBMを運用する軍種である戦略ロケット軍へ統合。しかし、02(同14)年の大統領令により、同年5月末までに、戦略ロケット軍内の(旧)ロケット・宇宙防衛部隊と(旧)宇宙軍を統合して、兵科としての(新)宇宙部隊およびICBMを運用する兵科としての(新)戦略ロケット部隊に再編。これにより、ロシア軍は、地上軍、海軍、空軍の3軍種、戦略ロケット部隊、宇宙部隊、空挺部隊の3独立兵科の体制に移行した。

 
8)98(平成10)年に地上軍総司令部を廃止し、地上軍総局を創設したが、02(同14)年12月、これを廃止し、地上軍総司令部を復活させた。

 
9)03(平成15)年、地上軍航空部隊の80以上の部隊など(人員2万5,000名以上)が航空兵科として空軍隷下に編入された。

 
10)イワノフ国防相は、昨年11月、05年現在の兵力数が113万4,800人で、これを11(平成23)年までに110万人にすると述べている。

 
11)例えば、信頼醸成措置から始まった両国の軍事面における協力関係は、実際の共同行動をも念頭に置いた段階に発展しつつある。04(同16)年から在欧米陸軍とロシア地上軍の間で指揮所演習「トルガウ2004」が開始されたのに続き、昨年には実動訓練を伴う「トルガウ2005」が実施された。

 
12)米国は、本年2月に公表された「四年毎の国防計画の見直し(QDR)」において「米国は、ロシアにおける民主主義の衰退、非政府組織(NGO)や報道の自由の抑制、政治権力の中央集権化、経済的自由の制限に依然として懸念を抱いている。」としている。

 
13)CIS諸国の一部には、ロシアとの距離を置こうとする動きも見られ、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバで形成する地域組織GUAM諸国(これらの国々の頭文字)は、安全保障や経済面でロシアへの依存度低下を目指し、欧米志向の政策をとっている。(ウズベキスタンは、CIS集団安全保障条約機構脱退後の99(平成11)年にGUAMに加盟したが、昨年脱退した。)

 
14)01(同13)年8月、ロシア、カザフスタン、キルギスおよびタジキスタンの4か国からそれぞれ1個部隊(大隊以下級の部隊)の提供を受け、約1,000〜1,300名規模で編成された。司令部は、キルギスの首都ビシケク。04(同16)年5月には、新たにタジキスタンから2個部隊、ロシア、カザフスタンからそれぞれ1個部隊が追加され、全部で9個大隊、4,500名の規模にまで拡大された。

 
15)このカント空軍基地の近くには、米国などが対テロ作戦に使用しているマナス基地がある。

 
16)共通の関心分野として、1)テロとの闘い、2)危機管理、3)大量破壊兵器とその運搬手段の不拡散、4)軍備管理・信頼醸成措置、5)戦域ミサイル防衛、6)海洋における捜索・救助、7)軍相互の協力および防衛改革、8)民間緊急事態への対応、9)新たな脅威と課題の9項目が示されている。

 
17)プーチン大統領は、昨年、東アジア首脳会議に正式にメンバーとして参加したいとの意向を改めて表明した。

 
18)ロシア対外政策概念(00(同12)年7月)

 
19)03(平成15)年から04(同16)年にかけて、インドネシア、マレーシア、ベトナムとの間でSu-27、Su-30戦闘機などの売却契約が結ばれたほか、同年1月にはインドに空母を売却する契約も結ばれた。また、本年3月にはアルジェリアとの間で、約70億ドルのロシア製兵器の購入を条件に、対ロシア債務を免除することについて合意した。

 
20)02(同14)年6月のカナナスキス・サミットで、G8は、大量破壊兵器拡散阻止のため、ロシアの化学兵器廃棄、退役原潜の解体、核分裂物質の処分などを支援する費用として、今後10年間で200億ドルを上限に拠出することを決定した。

 
21)師団と旅団の一部が常時即応部隊に指定され、これ以外の部隊については、装備は十分に備えているが、人員充足率は極めて低いとみられている。

 
22)00(同12)年にはバレンツ海で北洋艦隊の原子力潜水艦「クルスク」の沈没事故が、昨年にはカムチャツカ半島沖で小型潜水艇が浮上不能になる事故が発生したほか、しばしば航空機やヘリコプターの事故も起きている。

 
23)シベリア軍管区と極東軍管区における推定兵員数

 
24)師団の一部は、地域防御的な部隊である機関銃・砲兵師団へ改編された。また、削減された師団の中には、旅団化されたものや、人員の充足によりほかの師団と同等の戦力への回復が可能である装備機材保管基地に転換されているものもある。


 

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