第5章 国民と防衛庁・自衛隊 

自衛隊の医官について

 自衛隊の医官は、自衛隊の病院や駐屯地などに勤務して、医官としての専門技術の訓練や平素から隊員の健康管理を通して精強な自衛隊を支えている。最近では、災害派遣、国際緊急援助活動、イラク人道復興支援特措法やインド洋などにおけるテロ対策特措法に基づく活動など、自衛隊の国内外における諸活動においても重要な役割を果たしている。
 第1次イラク復興支援群の医官として派遣された平山健一2等陸佐(現所属:自衛隊札幌病院小児科部長)による派遣時の感想は以下のとおりである。

 
サマーワで乳児に対する診療指導を行う平山2等陸佐

 「回診中のある小児病棟では、古くて磨(す)りガラスのようになって中が見えなくなった保育器に赤ちゃんが寝ており、その傍らで不安げに佇(たたず)むお母さん方を見ると何かしら悲しい気持ちになりました。後日、わが国のODAの枠組みにより供与された医療器材が到着し、赤ちゃんたちを新しい保育器に移すことができ、お母さん方は本当に嬉しそうな顔をしていました。
 このような日本人の善意を、イラク人に直接伝える仕事ができ、本当に名誉なことだったと感じ、また、自衛隊医官として参加したイラク復興支援活動は、とてもやりがいのある仕事でした。」

 国内外を問わず、その諸活動に対する期待が高まり、自衛隊医官の重要性が改めて認識される中で、防衛庁・自衛隊は、防衛医科大学校卒業後、9年間の義務年限を待たずして退職する医官が後を絶たないという「早期退職問題」を抱えている。昨年度は、78名の医官が退職し、その内の32名が義務年限内の早期退職であった。医療技術の高度化・専門化を背景に、自衛隊医官以外の一般医師も、幅広い種類の症例経験を重ねることが求められるようになる中、健強な自衛官の健康管理を行っている自衛隊医官には、症例の種類と数が限られており、医官の早期退職が増加する原因の一つと考えられている。
 「医師としての技術を維持・向上させたい。」「もっと臨床経験を重ねたい。」という自衛隊医官のやる気と熱意に応えるため、防衛庁・自衛隊では、衛生担当防衛参事官を長とする「自衛隊医官の早期退職防止等の検討委員会」を立ち上げ、解決策を検討している。

※義務年限:防衛医科大学校卒業生は、当該教育訓練を修了した後9年の期間を経過するまでは、隊員として勤続するように努めなければならない。(自衛隊法第64条の2)


 

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