第5章 国民と防衛庁・自衛隊 

教育訓練の制約と対応

(1)陸上自衛隊
 訓練を行う演習場や射場のある場所は地域的に偏っており、また、その数や広さも十分でないため、大部隊の演習や戦車、対戦車ヘリコプター、ミサイル、長射程の火砲の射撃訓練などを十分にできない状況にあり、装備の近代化に伴いこの制約は大きくなる傾向にある。また、演習場や射場の周辺地域の都市化に伴う制約も年々増えている。
 こうした制約に対応するため、師団レベルの実動演習を北海道などの大規模な演習場まで移動して行うなど、限られた国内演習場を最大限に活用している。また、射程が長く国内では射撃できない地対空誘導弾(改良ホーク)や、地対艦誘導弾のほか、国内ではその機能を十分に発揮した状態で射撃できない対戦車ヘリコプター、多連装ロケットシステム16、戦車などの実射訓練を米国で行っている。

 
米国で射撃訓練を行う陸自特科部隊

(2)海上自衛隊
 国内には、実戦に近い厳しい電子戦17環境下での訓練ができる海域・空域や、ミサイル・魚雷発射訓練の評価ができる大規模な施設などがないことから、国内では得られない訓練環境が確保できるハワイ沖などで訓練を行っている。
 また訓練海域は、水深などとの関連から、使用できる場所や時期などに制約がある。特に、掃海(そうかい)訓練、潜水艦救難訓練などに適した比較的浅い海域は、一般船舶の航行や漁船の操業などと競合するため、むつ湾や周防灘(すおうなだ)などの一部に限られる。このため、短期間により多くの部隊が訓練成果を上げられるような計画を作り、効率的な訓練に努めている。

 
アスロック(対潜ロケット)発射訓練を行う護衛艦

(3)航空自衛隊
 国内の訓練空域は、十分な広さがなく高速で飛行する戦闘機の特性を最大限発揮した訓練などが実施できない。このため、組織的な行動を伴う実戦的な訓練に制約を受ける。訓練空域と多くの基地との往復には長時間を要し、また、電子戦訓練を実施する場合には、電波の干渉防止などの観点から制約があるなどの問題もある。
 さらに、多くの基地においては早朝や夜間の飛行訓練に制約があり、また、ミサイルなどの射場についても、発射可能な射場が限定され、訓練に制約を受けている。
 このため、従来から、国内では得られない訓練環境を確保できる米国で、地対空誘導弾(ペトリオット)の実射訓練を行うほか、グアムにおける日米共同訓練を実施している。
 また、03(同15)年度からは、米空軍演習(コープサンダー演習)18にF-15戦闘機とE-767早期警戒管制機を参加させ、空域や電波使用などの制約のほとんどない環境下で日米共同訓練を行っている。

 
アラスカ上空を飛行する空自機と米空軍機


 
16)広域目標を瞬時に撃破、制圧することを目的とした遠距離多連装地対地ロケットで、92(平成4)年から調達を開始した。

 
17)敵の電磁波を探知し、これを逆用し、あるいは、その使用効果を低下させ、又は無効にするとともに、味方の電磁波の利用を確保する活動のこと

 
18)米空軍演習(コープサンダー演習)には、平成8年度からほぼ毎年、C-130H輸送機や基地防空隊などを参加させてきた。


 

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