第5章 国民と防衛庁・自衛隊 

隊員個々の訓練と部隊の訓練

 各自衛隊の部隊などで行う訓練は、隊員それぞれの職務の練度向上を目的とした隊員個々の訓練と、部隊の組織的な行動を練成することを目的とした部隊の訓練とに大別される。
 隊員個々の訓練は、職種などの専門性や隊員の能力に応じて個別的、段階的に行われる。部隊の訓練は、小部隊から、大部隊へと規模を拡大しつつ訓練を積み重ね、総合的な能力の発揮を目標として行う。また、自衛隊では、わが国の防衛のための訓練に加え、近年、周辺事態への対応、不審船や武装工作員などによる事態への対処、大規模テロに際しての自衛隊の施設の警護など、自衛隊の任務の多様化に対応した訓練の充実にも努めている。
 各自衛隊の部隊訓練の概要は次のとおりである。

(1)陸上自衛隊
 陸自では、普通科(歩兵)、特科(砲兵)、機甲科(戦車・偵察)などの各職種ごとの部隊行動の訓練、他の職種部隊と協同した訓練、普通科部隊などに他の職種の部隊を配属して総合戦闘力を発揮できるようにした部隊の訓練を通じて、練度の向上を図っている。
 こうした訓練は、可能な限り実戦に近い環境下で行うよう努めている。6
 また、連隊・師団レベルの指揮・幕僚活動を効果的に演練するための、コンピューターを主体とした統裁支援システム7を備えた指揮所訓練センター8や、それ以下の規模の部隊(中隊レベルなど)に係る訓練を効果的に行うための、レーザーやコンピューターなどを使用した交戦訓練装置9を備えた富士訓練センター、市街地訓練場を運用している。この様な施設で訓練を行うことにより、部隊としての実戦的な感覚を身につけさせるとともに、客観的・計数的な評価を行い、部隊の練度の向上を図っている。
 このほか、師団規模の大部隊の長距離機動能力を向上させる北方機動特別演習10など、総合的な訓練を行っている。

 
北海道大演習場における陸自戦闘訓練

(2)海上自衛隊
 海自では、周期訓練方式をとっている。これは、要員の交代や艦艇の修理・検査の時期を見込んだ一定の期間を一つの周期としてとらえて、その周期の中に配したいくつかの訓練期間を使って段階的に練度を向上させる方式である。
 訓練の初期段階では、戦闘力の基本単位である艦艇や航空機ごとのチームワーク作りを主眼として訓練を行う。その後、練度の向上に伴って応用的な部隊訓練へと移行し、部隊規模を拡大しながら、艦艇相互、艦艇と航空機間の連携の訓練などを行っている。さらに、より大きな部隊間での連携ができるよう、海上自衛隊演習などの総合的な訓練を行っている。

 
艦隊機動訓練を行う海自護衛艦

(3)航空自衛隊
 空自は、戦闘機、地対空誘導弾、レーダーなどの先端技術の装備を駆使する集団である。このため、訓練の初期段階では個人の専門的な知識や能力を段階的に引き上げることを重視しつつ、戦闘機部隊、航空警戒管制部隊、地対空誘導弾部隊などの部隊ごとに訓練を行っている。この際、隊員と航空機などの装備品が一体となり、それぞれが有効に機能し部隊の持つ総合的な力を発揮させることを目指している。練度が向上するにしたがって、これら部隊間の連携要領の訓練を行っている。さらに、航空輸送部隊や航空救難部隊などを加えて、防空を主体とする航空総隊総合演習などの総合的な訓練を行っている。

 
空中戦闘訓練を行う空自戦闘機(F-15)

 
各自衛隊の主要演習実績(平成16年度)


 
6)例えば、訓練に参加する航空機は、実際に爆弾を投下しないが地上で爆弾を爆発させるなどして、あたかも航空攻撃が行われたかのように模擬する形で行っている。

 
7)入力された部隊の行動をコンピューターにより審判し、状況の付与や記録を行うシステム

 
8)同センターにおいては、実動訓練の制限を受ける連隊・師団などの司令部の戦闘実行場面での指揮・幕僚活動を単独又は対抗方式により、軽易に演練することができ、また、これまで隊員が行っていた審判、状況付与、訓練の記録などをコンピューターを活用して行うことにより、実際的な指揮所訓練を従来の2分の1程度の支援人員で行っている。

 
9)レーザーとセンサーを使用し、実弾を使用することなく交戦結果が得られる装置から個々の交戦データをコンピューターなどを用いて集積・活用し、訓練の統裁・評価ができるシステム

 
10)本年度より、「協同転地演習」と呼称


 

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