第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

2 事態対処関連法制の概要


武力攻撃事態対処関連3法

(1)武力攻撃事態対処法
 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態)への対処について、基本理念、国、地方公共団体などの責務、国民の協力その他の基本となる事項を規定し、武力攻撃事態等への対処のための態勢を整備し、併せて必要な法律の整備に関する事項を定め、わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的としている。

ア 武力攻撃事態等

(ア)武力攻撃事態
 わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

(イ)武力攻撃予測事態
 武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態

イ 対処措置
 対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関1が法律の規定に基づいて実施する措置(以下の(ア)、(イ))

(ア)武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する措置
1) 自衛隊が実施する武力の行使、部隊などの展開その他の行動

2) 自衛隊の行動及び米軍の行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置

3) 1)及び2)のほか、外交上の措置その他の措置

(イ)国民の生命、身体及び財産の保護又は国民生活及び国民経済への影響を最小とするための措置
1) 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、施設及び設備の応急の復旧その他の措置

2) 生活関連物資などの価格安定、配分その他の措置

ウ 基本理念

(ア)武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。

(イ)武力攻撃予測事態においては、武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない。

(ウ)武力攻撃事態においては、武力攻撃の発生に備えるとともに、武力攻撃が発生した場合には、これを排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、武力攻撃が発生した場合においてこれを排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。

(エ)武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。
 この場合において、憲法第14条(法の下の平等)、第18条(奴隷的拘束及び苦役からの自由)、第19条(思想及び良心の自由)、第21条(集会・結社・表現の自由、通信の秘密)その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

(オ)武力攻撃事態等においては、当該武力攻撃事態等及びこれへの対処に関する状況について、適時、かつ、適切な方法で国民に明らかにされるようにしなければならない。

(カ)武力攻撃事態等への対処においては、日米安全保障(日米安保)条約に基づいて米国と緊密に協力しつつ、国際連合(国連)をはじめとする国際社会の理解及び協調的行動が得られるようにしなければならない。

エ 国の責務など

(ア)国の責務
 国は、基本理念にのっとって、組織及び機能のすべてを挙げて、武力攻撃事態等に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務がある。

(イ)地方公共団体の責務
 地方公共団体は、住民の生命、身体及び財産を保護する使命を有し、国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態等への対処に関し、必要な措置を実施する責務がある。

(ウ)指定公共機関の責務
 指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態等への対処に関し、その業務について、必要な措置を行う責務がある。

(エ)国と地方公共団体との役割分担
 武力攻撃事態等への対処の性格上、国においては武力攻撃事態等への対処に関する主要な役割を担い、地方公共団体においては武力攻撃事態等におけるその地方公共団体の住民の生命、身体及び財産の保護に関して、国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とする。

(オ)国民の協力
 国民は、国及び国民の安全を確保することの重要性にかんがみ、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が対処措置を行う際は、必要な協力をするよう努める。

オ 対処基本方針

(ア)政府は、武力攻撃事態等に至ったときは、次の事項を定めた対処基本方針を閣議で決定する。

1) 武力攻撃事態であること又は武力攻撃予測事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実

2) その武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針

3) 対処措置に関する重要事項

(イ)武力攻撃事態において内閣総理大臣が次に示す1)から7)までの措置を行う場合、又は武力攻撃予測事態において1)から4)までの措置を行う場合には、その旨を対処基本方針の重要事項として対処基本方針に記載しなければならない。

1) 防衛庁長官が予備自衛官及び即応予備自衛官の防衛招集命令を発することの承認

2) 防衛庁長官が防衛出動待機命令を発することの承認

3) 防衛庁長官が防御施設構築の措置を命ずることの承認

4) 防衛庁長官が米軍行動関連措置法が定める行動関連措置としての役務の提供を命ずることの承認

5) 防衛庁長官が海上輸送規制法が定める停船検査及び回航措置を命ずることの承認

6) 防衛出動を命ずることについての国会承認の求め

7) 防衛出動を命ずること(特に緊急の必要があり事前に国会承認を得るいとまがない場合)

(ウ)対処基本方針については、閣議決定後、直ちに国会の承認を求めなければならない。

(エ)国会において、対処基本方針に関する不承認の議決があったときは、その議決に係る対処措置は、速やかに、終了しなければならない。防衛出動を命じた自衛隊については、直ちに撤収を命じなければならない。

(オ)防衛出動を命ずることにつき国会の承認が得られたときは、対処基本方針を変更して、防衛出動を命ずる旨を記載する。

(カ)内閣総理大臣は、対処措置を行う必要がなくなったと認めるとき又は国会が対処措置を終了すべきことを議決したときは、対処基本方針の廃止につき、閣議の決定を求めなければならない。

カ 対策本部

(ア)対処基本方針が定められたときは、対処基本方針の実施を推進するため、内閣に、内閣総理大臣を長とする武力攻撃事態等対策本部(対策本部)を設置する。対策副本部長及び対策本部員は国務大臣をもって充てる。

(イ)対策本部長は、対処基本方針に基づき、対処措置に関する総合調整を行うことができる。

(ウ)内閣総理大臣は、国民の生命、身体若しくは財産の保護又は武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、総合調整に基づく所要の対処措置が行われないときは、関係する地方公共団体の長などに対し、その対処措置を実施すべきことを指示することができる。

(エ)内閣総理大臣は、次の場合において、関係する地方公共団体の長などに通知した上で、自ら又はその対処措置に係る事務を所掌する大臣を指揮し、その地方公共団体又は指定公共機関が行うべき対処措置を行い、又は行わせることができる。

1) 指示に基づく所要の対処措置が行われないとき

2) 国民の生命、身体若しくは財産の保護又は武力攻撃の排除に支障があり、特に必要があると認める場合であって、事態に照らし緊急を要すると認めるとき

(オ)政府は、対処措置の実施に関し、前述の総合調整又は指示に基づく措置の実施により当該地方公共団体又は指定公共機関が損失を受けたときは、その損失に関し、必要な財政上の措置を講じる。

(カ)政府は、地方公共団体及び指定公共機関が行う対処措置について、その内容に応じ、安全の確保に配慮しなければならない。

キ 国連安全保障理事会への報告
 政府は、国連憲章第51条2などにしたがって、武力攻撃の排除に当たってわが国が講じた措置について直ちに国連安全保障理事会に報告する。

ク 緊急対処事態など3への対処のための措置
 政府は、わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、武力攻撃事態等以外の緊急対処事態などにも、的確かつ迅速に対処する。
 また、武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生などのわが国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、1)情報の集約、事態の分析・評価を行うための態勢の充実、2)各種の事態に応じた対処方針の策定の準備、3)警察、海上保安庁などと自衛隊の連携の強化といった措置などを速やかに講ずる。
 緊急対処事態とは、武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で、国家として緊急に対処することが必要なもののことをいう。
 緊急対処事態に至ったときは、1)緊急対処事態であることの認定及びその前提となった事実、2)対処に関する全般的な方針、3)緊急対処措置に関する重要事項を定めた緊急対処事態対処方針を閣議決定し、臨時に内閣に緊急対処事態対策本部を設置する。

(2)安全保障会議設置法4の一部改正
 諮問事項の追加、議員の整理及び専門補佐組織の新設を通じて、事態対処に係る安全保障会議の役割を明確化・強化した。

ア 議員5
 内閣総理大臣(議長)、内閣法第9条指定大臣6、総務大臣(改正により追加)、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣(改正により追加)、国土交通大臣(改正により追加)、内閣官房長官、国家公安委員会委員長、防衛庁長官

イ 諮問事項

1) 国防の基本方針

2) 防衛計画の大綱

3) 防衛計画の大綱に関連する産業等の調整計画の大綱

4) 武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(対処基本方針)7(改正により追加)

5) 内閣総理大臣が必要と認める武力攻撃事態等への対処に関する重要事項(改正により追加)

6) その他内閣総理大臣が必要と認める国防に関する重要事項

7) 内閣総理大臣が必要と認める重大緊急事態8への対処に関する重要事項(改正により追加)

ウ 事態対処専門委員会
 事態対処に関する安全保障会議の審議を迅速かつ的確に実施するため、必要な事項に関する調査・分析を行い、その結果に基づき、安全保障会議に進言する専門的な補佐組織として事態対処専門委員会(委員長:内閣官房長官)を置くこととした。
 なお、事態対処専門委員会委員は、内閣官房及び関係行政機関の職員の中で内閣総理大臣より任命された者である。

(3)自衛隊法等の一部改正
 いわゆる「有事法制研究」における第1分類(防衛庁所管の法令)及び第2分類(防衛庁所管以外の法令)のうち立法化を要するものを中心に、1)自衛隊法第103条の補備として土地や家屋の使用をする場合の立木等の移転・処分の権限及び相手方の所在不明の場合の措置等を追加、2)自衛隊による防御施設の構築を円滑に行うため、防衛出動下令前の防御施設の構築の措置を新設、3)自衛隊の迅速な移動を確保するため、防衛出動時における緊急通行に係る規定を新設、4)自衛隊の行動の円滑化を図るため道路法などの関係法律の適用について所要の特例規定を新設、5)防衛出動を命ぜられた職員に対する防衛出動手当の支給、災害補償その他給与に関し必要な特別の措置等を規定した。


 
1)独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関と電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの

 
2)資料79参照

 
3)緊急対処事態のほか、武力攻撃事態等以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態のこと

 
4)設置法第1条/国防に関する重要事項及び重大緊急事態への対処に関する重要事項を審議する機関として、内閣に安全保障会議を置く。

 
5)設置法第5条第2項/議長(内閣総理大臣)が必要と認める場合、議案を限ってその他の国務大臣を、議員として、臨時に参加させることができる。
設置法第7条/議長(内閣総理大臣)が必要と認める場合、統合幕僚会議議長その他の関係者に意見を述べさせることができる。

 
6)設置法第4条第3項/議長に事故があるとき、又は議長が欠けたときは、内閣法第9条指定大臣がその職務を代理する。
内閣法第9条/内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。

 
7)武力攻撃事態対処法の規定により、対処基本方針は閣議決定を経て、国会承認を得る必要がある。

 
8)設置法第2条第1項第7号/武力攻撃事態等以外の緊急事態で、通常の緊急事態対処体制によっては適切に対処することが困難な事態


 

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