第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

国連海洋法条約に規定される無害通航と潜水艦の潜没航行

 国連海洋法条約では、軍艦を含め、すべての国の船舶は、沿岸国の平和、秩序及び安全を害さない無害な場合に、沿岸国の領海を通航する権利を持つとされている(第17条、第19条1)。
 同条約における領海の通航とは、沿岸国の内水に入ることなく又は内水の外にある停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ることなく領海を通過すること、又は内水に出入りすること、あるいは内水の外の停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ることのために領海を航行することである(第18条1)。同条約には、領海の通航が無害通航に該当しない具体例として、武力による威嚇・武力の行使、兵器を用いる演習、沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報収集を目的とする行為、航空機の発着などの活動に従事する場合などが示されている(第19条2)。また、同条約では、通航は継続的かつ迅速に行わなければならないとされているが、航海に通常付随する停船及び投錨、不可抗力又は遭難により必要な場合などの停船及び投錨は通航に含まれるとしている(第18条2)。
 他方、同条約では潜水船その他の水中航行機器については、領海においては、海面上を航行し、かつ、その旗を掲げなければならないとされている(第20条)。潜水艦は、浮上して国旗(軍艦旗)を掲げる場合には、他の軍艦(水上艦)と同様に無害通航の権利を行使できる。これに対して、領海を潜没して航行する潜水艦に対しては、沿岸国は浮上要求や領海外への退去の要求を行うことができる。
 昨年秋に、わが国領海内を潜没して航行した潜水艦は、このケースに該当する。なお、軍艦たる潜水艦が領海を潜没して航行し、浮上や領海外への退去の要求に応じない場合に、沿岸国がいかなる措置をとり得るかについて、国連海洋法条約上、明示的に規定された条文は無い。

 
掲旗浮上航行する海自の潜水艦


※( )内の条文は、国連海洋法条約の関連条文を示す。

 

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