第3章 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応と本格的な侵略事態への備え 

わが国の弾道ミサイル防衛(BMD

 わが国におけるBMDへの取組は、90年代半ばのBMDシステムに関する情報収集、研究から始まり、99(同11)年からは将来装備品の共同技術研究に着手し、昨年からは具体的な装備化を開始している。今後、着実な整備を進めるとともに、将来の能力向上のための研究開発や、運用面での取組を加速化していく必要がある。

(1)研究から整備開始まで
 防衛庁は95(同7)年度からわが国の防空システムのあり方の検討に着手し、BMDシステムの技術的実現可能性などの検討を開始した。この時期、日米政府間でBMDに関する情報の交換についての取極を締結の上、防衛庁は米国防省と情報交換に関する了解覚書を締結し、米国でのBMDに関する知識・経験をわが国の調査・検討の材料として参考にしている。98(同10)年には北朝鮮が、日本上空を超える弾道ミサイルの発射を行ったこともあり、BMDに対する世論の関心が高まった。同年には、安全保障会議と閣議の了承を経て、海上配備型上層システムの一部を対象に米国と日米共同技術研究を開始することを決定し2、現在まで続く、迎撃ミサイルの4つの主要構成品に関する共同研究を99(同11)年に開始した。
 このような取組を踏まえ、00(同12)年に安全保障会議と閣議で決定された「中期防衛力整備計画(平成13年度〜平成17年度)」3においては、「弾道ミサイル防衛(BMD)については、海上配備型上層システムを対象とした日米共同技術研究を引き続き推進するとともに、技術的な実現可能性などについて検討の上、必要な措置を講ずる。」こととされた。
 この間、米国において、地上配備型の地対空誘導弾ペトリオット・システム(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3:ペトリオット能力改善3型)4(ペトリオット・システム)は、迎撃試験で多くの成功を収め、また、イージス艦5による海上配備型ミッドコース防衛システムについても、実用化に向けての良好な結果が得られた。米国のBMD初期配備に関する決定(02(同14)年12月)は、このようなBMDの技術的実現可能性を裏付けるものであった。
 政府は、以上の米国における取組の進展に加え、わが国独自のシミュレーションにより、BMDシステムの技術的実現可能性は高いと判断した。そして、BMDが専守防衛を旨とするわが国の防衛政策にふさわしいものであることを踏まえ、03(同15)年12月19日、安全保障会議と閣議において「弾道ミサイル防衛システムの整備等について」6を決定するとともに、官房長官談話7によりBMDシステムの整備に関する考え方を明らかにし、わが国のBMDの整備を開始した。

 
海上配備型ミッドコース防衛システムの運用構想図

(2)BMDシステム整備の概要
 03(同15)年12月の決定以降、わが国が整備を進めているBMDシステムは、現在自衛隊が保有しているイージス艦とペトリオット・システムの能力を向上させ、両者(イージス艦による上層での迎撃とペトリオット・システムによる下層での迎撃)を統合的に運用する多層防衛の考え方を基本としている。
 弾道ミサイルの飛翔経路は、1)発射された直後でロケットエンジンが燃焼し、加速しているブースト段階、2)ロケットエンジンの燃焼が終了し、慣性運動によって宇宙空間(大気圏外)を飛行しているミッドコース段階、3)その後大気圏に再突入して着弾するまでのターミナル段階の3つに分類できる。わが国のBMDシステムは、飛来する弾道ミサイルを、イージス艦によりミッドコース段階において、ペトリオット・システムによりターミナル段階において、それぞれ迎撃する多層的なウェポンシステムを採用している。そして、これに加えてわが国に飛来する弾道ミサイルを探知・追尾するセンサー、さらにウェポンとセンサーを効果的に連携させて組織的に弾道ミサイルに対処するための指揮統制・通信システムから構成されている。
 また、整備に関する方針として、取得・維持に係るコストを軽減しつつ、効果的・効率的なシステムの構築を図るとの観点から、現有装備品の活用を掲げている。前出のイージス艦とペトリオット・システムの能力向上は、いずれも従前からわが国が保有していた装備品に弾道ミサイル対処能力を付加するものである。センサーについては、現有の地上レーダーの能力向上型を活用するほか、現在新たに開発中のレーダーであるFPS-XX8についても従来型の経空脅威(航空機など)と弾道ミサイルの双方に対応できる併用レーダーを目指している。指揮統制・通信システムとしての自動警戒管制システムについても同様である。

 
BMD整備構想・運用構想

 当面の具体的な整備計画は、平成18年度末に最初のペトリオットPAC-3の導入が始まり、平成23年度をもって、イージス艦(BMD機能付加):4隻、ペトリオットPAC-3:16個FU9(高射隊分)、FPS-XX:4基、FPS-3改(能力向上型):7基、を指揮・通信システムで連接したシステムを構築することを目標としている。
 平成16年度予算として約1,068億円を計上してBMDシステムの整備を開始したが、昨年12月に安全保障会議と閣議で決定された「新防衛大綱」の別表、及び「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)」10(新中期防)においても、引き続き、これら現有装備の能力向上や改修の方針が示されている。平成17年度予算においては、BMD関連経費として1)イージス艦の能力向上とSM-311ミサイルの取得・発射試験12、2)ペトリオット・システムの能力向上とPAC-3ミサイルの取得、3)自動警戒管制システムへの弾道ミサイル対処機能付加のための基本設計・製造への移行など13、総額約1,198億円(契約ベースの金額)を計上している。

(3)将来の能力向上
 依然として弾道ミサイル技術の拡散は進展しており、各国が保有する弾道ミサイルも将来的には、デコイ(囮(おとり))を用いて弾頭の迎撃を欺瞞(ぎまん)するなど、迎撃回避措置を備えたものになっていく可能性も否定できない。このような弾道ミサイルの先進化に対応した能力向上を継続的に図っていくことが必要である。また、従来型の弾道ミサイルに対しても、1つのシステムが防護できる範囲の拡大や迎撃確率の向上を行っていくことが求められ、システムの効率性・信頼性の向上に取り組んでいくことが必要である。
 このような観点から、わが国はBMDシステムの整備を進めるとともに、99(同11)年に開始した共同技術研究を継続するなど、将来の能力向上に努めている。新中期防においても、この点を明記したほか、平成20年度以降(新防衛大綱の別表に掲げる体制を整備した後)のイージス艦とペトリオット・システムの能力向上のあり方について、「米国における開発の状況などを踏まえて検討の上、必要な措置を講ずる。」14こととしている。

 
イージス艦の改修概要

 
ペトリオット・システムの改修概要


 
2)本節1参照

 
3)平成16年12月に安全保障会議及び閣議で決定された「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)について」により、平成16年度限りで廃止された。

 
4)ペトリオット・システムは、経空脅威に対処するための防空システムの1つ、PAC-3は、主として航空機を迎撃目標としていた従来型のPAC-2と異なり、主として弾道ミサイルを迎撃目標とするミサイルである。

 
5)目標の捜索、探知、分類識別、攻撃までの一連の動作を高性能コンピューターによって自動的に処理するイージス防空システムを備えた艦艇をいう。

 
6)資料35参照

 
7)資料36参照

 
8)弾道ミサイルの早期探知を可能とするもので、平成11年度より開発中

 
9)fire unit(対空射撃部隊の最小射撃単位)

 
10)2章3節1参照

 
11)主として航空機・対艦ミサイルを迎撃目標としていた従来型のSM-2ミサイルと異なり、弾道ミサイルを迎撃目標とするミサイル

 
12)1隻目のイージス艦(平成16年度予算計上)がBMD機能の付加のための改修を終えた後、その性能を確認するため行う試験であり、平成19年度中に米国において実施する予定

 
13)2章3節2参照

 
14)2章3節1参照


 

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