第2章 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

日米防衛協力のための指針とその実効性確保のための諸施策

(1)日米防衛協力のための指針
 「日米安全保障共同宣言」を踏まえ、日米両国は、日米安保体制の信頼性の更なる向上を図るため、約20年ぶりに「日米防衛協力のための指針」(前指針)6を見直すことを決定し、97(同9)年、「2+2」会合において、新たな「日米防衛協力のための指針」(指針)が了承された7。その概要は、次のとおりである。

ア 指針の目的など
 指針は、平素から並びにわが国に対する武力攻撃及び周辺事態に際して、より効果的かつ信頼性のある日米協力を行うための堅固な基礎を構築することなどを目的としている。
 指針及びその下で行われる取組は、日米同盟関係の基本的な枠組みを変更しない、わが国の憲法上の制約の範囲内で、専守防衛、非核三原則などのわが国の基本的な方針に従うなどの基本的な前提と考え方に従って実施される。

イ 指針において定められた協力事項

(ア)平素から行う協力
 両国政府は、わが国の防衛及びより安定した国際的な安全保障環境の構築のため、密接な協力を維持し、平素から情報交換及び政策協議、安全保障対話・防衛交流、国連平和維持活動及び人道的な国際救援活動、共同作戦計画及び相互協力計画の検討、共同演習・訓練の強化、調整メカニズムの構築など様々な分野での協力を充実する。

(イ)わが国に対する武力攻撃に際しての対処行動など
 わが国に対する武力攻撃に際しての共同対処行動などは、引き続き日米防衛協力の中核的要素であり、両国政府は次のような協力を行う。

1) わが国に対する武力攻撃に際しては、自衛隊は主として防勢作戦8を行い、米軍はこれを補完・支援するための作戦を行う。

2) 自衛隊と米軍は、整合性を保ちつつ、各々の陸・海・空部隊の効果的な統合運用を行い、航空侵攻対処、わが国周辺海域の防衛、着上陸侵攻対処などそれぞれの作戦構想により対処する。

3) 自衛隊は、ゲリラ・コマンドウ攻撃など不正規型の攻撃を、極力早期に阻止・排除するための作戦を主体的に実施する。その際、事態に応じて米軍の適切な支援を得る。自衛隊と米軍は、弾道ミサイル攻撃に対応するために密接に協力し調整する。米軍は、必要に応じ、打撃力を有する部隊の使用を考慮する。

 
わが国に対する武力攻撃がなされた場合の作戦構想

(ウ)周辺事態に際しての協力

 日米両国政府は、周辺事態が発生することのないよう、外交を含めあらゆる努力を払う。周辺事態9における協力の対象となる機能・分野及び協力項目例は、次表のとおりである。

 
周辺事態における協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例

ウ 指針の下での日米共同の取組
 指針の下での日米防衛協力を効果的に進め、確実に成果を挙げるためには、「平素」、「わが国に対する武力攻撃」、「周辺事態」という安全保障上の種々の状況を通じ、両国が協議を行い、様々なレベルで十分な情報の提供を受けつつ、調整を行うことが必要不可欠である。このため、両国政府は、あらゆる機会をとらえて情報交換と政策協議を充実させていくほか、協議の促進、政策調整及び作戦・活動分野の調整のため、以下の2つのメカニズムを構築する。

(ア)包括的なメカニズム
 包括的なメカニズムは、平素において指針の下での日米共同作業を行うためのものであり、自衛隊と米軍だけでなく、両国政府の関係機関が関与して構築される。包括的なメカニズムでは、わが国に対する武力攻撃や周辺事態に円滑かつ効果的に対応できるよう、共同作戦計画と相互協力計画についての検討などの共同作業を行う。

 
包括的なメカニズムの構成

(イ)調整メカニズム
 00(同12)年に構築された調整メカニズムは、わが国に対する武力攻撃や周辺事態に際して両国が行うそれぞれの活動の調整を図るため、平素から構築しておくものである。

 
調整メカニズムの構成

(2)指針の実効性を確保するための諸施策

ア 指針の実効性確保のための措置
 政府は97(同9)年に、閣議決定を行い、指針の実効性を確保するため、法的側面を含めて政府全体として検討し、必要な措置を適切に講ずることとした。
 このような検討の成果として、99(同11)年〜00(同12)年にかけて、周辺事態安全確保法、日米物品役務相互提供協定を改正する協定、自衛隊法の一部を改正する法律(自衛隊法第100条の8)、船舶検査活動法が成立・承認された。

イ 周辺事態安全確保法と船舶検査活動法の概要
 周辺事態安全確保法は、周辺事態に対応してわが国が行う措置、その実施の手続などを定めている。また、船舶検査活動法は、周辺事態に対応してわが国が行う船舶検査活動に関して、その実施の態様、手続などを定めている。
 政府は、周辺事態に際して、適切かつ迅速に、必要な対応措置を行い、わが国の平和と安全の確保に努めること、対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使にあたるものであってはならないことなどの基本原則に基づき対応する。
 内閣総理大臣は、周辺事態に際して、自衛隊が行う後方地域支援10、後方地域捜索救助活動又は船舶検査活動などを行う必要があると認めるときは、その措置を行うこと及び対応措置に関する基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。また、対応措置の実施について国会の事前承認、緊急時は事後承認を得なければならない。
 防衛庁長官は、基本計画に従い、実施要項(実施区域の指定など)を定め、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊などに、自衛隊による後方地域支援、後方地域捜索救助活動及び船舶検査活動の実施を命ずる。
 関係行政機関の長は、法令と基本計画に従い、対応措置を実施するとともに、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる。また、法令と基本計画に従い、国以外の者に対し、必要な協力を依頼することができる11
 内閣総理大臣は、基本計画の決定・変更、対応措置の終了に際しては、遅滞なく、国会に報告しなければならない。

 
周辺事態に対する対応の手順

ウ 後方地域支援
 後方地域支援とは、周辺事態に際して日米安保条約の目的達成に寄与する活動を行っている米軍に対する物品・役務の提供、便宜の供与などの支援措置であって、後方地域においてわが国が行うものである。
 自衛隊が行う後方地域支援で提供の対象となる物品・役務の種類は、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務及び基地業務である。

エ 後方地域捜索救助活動
 後方地域捜索救助活動とは、周辺事態において行われた戦闘行為によって遭難した戦闘参加者について、その捜索や救助を行う活動(救助した者の輸送を含む。)であって、後方地域においてわが国が行うものである。
 戦闘参加者以外の遭難者があるときは、これを救助する。また、実施区域に隣接する外国の領海にある遭難者を認めたときは、この外国の同意を得て、その遭難者の救助を行うことができる。ただし、その海域において現に戦闘行為が行われておらず、かつ、活動期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる場合に限る。

オ 船舶検査活動
 船舶検査活動とは、周辺事態に際し、貿易その他の経済活動にかかわる規制措置であってわが国が参加するものの厳格な実施を確保する目的で、国連安保理決議に基づいて、又は旗国12の同意を得て、船舶(軍艦など13を除く。)の積荷・目的地を検査・確認する活動及び必要に応じ船舶の航路・目的港・目的地の変更を要請する活動であって、わが国領海やわが国周辺の公海(排他的経済水域を含む。)においてわが国が行うものである。

 
船舶検査活動の実施の態様


 
6)78(昭和53)年に作成された前指針は、日米安保条約などの目的を効果的に達成するため、日米の協力のあり方について規定したものである。

 
7)資料29参照

 
8)敵の攻勢に対し、その企画の達成を阻止する目的をもって行う作戦。攻勢作戦とは、自ら敵を求めてこれを撃破しようとする積極的な形態をいう。

 
9)そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態など、わが国周辺の地域におけるわが国の平和と安全に重要な影響を与える事態を言う。

 
10)後方地域とは、わが国の領域並びに現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで行われる活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められるわが国周辺の公海(領海の基線から200カイリ(約370km)までの水域である排他的経済水域を含む。)及びその上空の範囲をいう。

 
11)政府は、協力を求められ又は協力を依頼された国以外の者が、その協力により損失を受けた場合には、その損失に関し、必要な財政上の措置を講ずる。

 
12)海洋法に関する国際連合条約第91条に規定するその旗を掲げる権利を有する国

 
13)軍艦及び各国政府が所有し又は運航する船舶であって非商業的目的のみに使用されるもの


 

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