中央アジア

　中央アジアは、アジアの中央という漠然とした概念であるが、一般に、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン及びトルクメニスタンの旧ソ連５か国をさす。この地域は、東は中国、北はロシア、西南で中東に接し、世界有数の石油、天然ガス²⁰を有するカスピ海を含んでいる。近年イスラム原理主義運動とこれを信奉する組織によるテロ事件が頻発し、9.11テロ後のアフガニスタンに対する対テロ作戦の後方基地として重要な位置を占めている。この地域に位置する上記の５か国は、ソ連崩壊の過程でそれぞれ独立したが、いずれの国もロシア、ベラルーシ、ウクライナのスラブ３ヵ国が提唱した独立国家共同体（CIS）に参加した²¹。本年３月、キルギスにおいては議会選挙に端を発した混乱から、アカエフ大統領（当時）が失脚し、政権交代となった。
　中でもカザフスタン、キルギス、タジキスタンの３ヵ国は、自国の安全保障の基盤をロシアとの関係に置いている。キルギスにおいては、CIS合同緊急展開部隊を強化するため、03（平成15）年にロシア空軍の常駐基地が開設された。タジキスタンは92（同４）年、独立後の混乱と内戦を経て、ロシアとの間に友好協力相互援助条約を締結した。同国には、ロシア軍１個師団（約8,000人）が駐留していたが、昨年10月にロシアの軍事基地に改編された。これら３ヵ国は、ロシアが主導するCIS集団安全保障条約（92（同４）年）、統合防空システム創設協定（95（同７）年）および外部国境警備協力条約（95（同７）年）に加盟している。また、中央アジア・コーカサス地域におけるイスラム武装勢力の活動の活発化を踏まえ、01（同13）年、合同緊急展開部隊も創設された²²。他方、中央アジアで最大の人口を有するウズベキスタンは、99（同11）年にCIS集団安全保障条約から脱退し²³、独自の安全保障体制を強化する動きを見せている。対テロ作戦における米国への積極的な協力姿勢も示しつつ、昨年６月にはロシアとの間で戦略的パートナーシップ条約を結び、安全保障上の協力関係も維持している。トルクメニスタンは、CISには加盟しているものの、CISのその他の経済と安全保障の枠組みには当初から一切参加せず、イスラム過激派勢力に対抗する中央アジア諸国の協力にも参加していない。中央アジアのイスラム過激派勢力は、ウズベキスタンの独立時に国内で弾圧された反政府勢力を中心に結成され、アフガニスタンのタリバーン勢力と連携して活動を行ってきたが、アフガニスタンに対する米国などの対テロ作戦により、主力は大きな打撃を受けたと見られ、活動が低下している。しかし、同年には、ウズベキスタンでイスラム過激派勢力によると見られる自爆テロ事件が散発した。
　また、中央アジア地域においては、CISの枠組みによらない安全保障の枠組みも模索されている。多国間の安全保障の枠組みとして上海協力機構（SCO:Shanghai Cooperation Organization）が設立された。これは、中国及び同国と国境を接する旧ソ連４ヵ国（ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン）で構成する「上海５（ファイブ）」を基盤に、新たにウズベキスタンが加わり設立され、同年１月に正式に国際機関として活動を開始した²⁴。また、この枠組においてテロへの共同対処を目的とする「地域対テロ機構（RATS:Regional Antiterrorist Structure）」がウズベキスタンに設置され、03（同15）年には、対テロ合同演習がカザフスタンと中国で行われている。
　このほか、アジア全域の信頼醸成を目的とするアジア相互協力信頼醸成会議（CICA:Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia）²⁵がカザフスタンにより提唱され、02（同14）年に最初の首脳会議が開かれた。
　また、歴史的にロシアの影響が強く、地理的にロシアや中国という大国に挟まれたこの地域では、現在、米軍のプレゼンスが継続している。9.11テロが起きると、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンは、米国などの対テロ作戦に対する協力を表明し、一部の国は米軍などの駐留を受け入れ、テロとの闘いにおける後方基地の役割を果たしている²⁶。