第1章 わが国を取り巻く安全保障環境 

グローバルな米軍の態勢見直し

 米国は現在、世界的に展開する米軍の態勢の見直しを進めている。昨年8月には、今後10年間にわたり、約6〜7万人の軍人が帰国し、それに伴って約10万人の軍人家族や文官職員が帰国するというこの見直し計画の一端が明らかにされている1。これは、この半世紀で最も包括的な海外米軍の態勢見直しとされている。
 米国がこのような見直しを進めている背景の一つには、冷戦時代と異なり、米国やその同盟国などに対する今日の脅威が、より予測の難しい敵になっているということがある。すなわち、冷戦期のように、脅威が発生する場所が特定されていれば、その地域で発生する危機に備えて最も望ましい態勢を準備しておくことになる。しかしながら、敵が誰であるか、どこで戦闘が起こるかを予測することが難しい今日の安全保障環境においては、今まで予測し得なかった場所においても効果的に危機に対応できる新たな態勢が必要になってきている2
 こうした背景を踏まえ、現在米国は、不測事態に対処し得る、より柔軟性の高い軍の態勢の確立や、いつ、どこで顕在化するか分からない今日の敵に対処するための、各統合軍間の縦割りによる弊害の解消などといった原則3に基づいて、米軍の態勢見直しを進めている。米軍の態勢見直しは、複雑なプロセスであり、今日の安全保障環境のみならず、ブッシュ政権が取り組んできている米軍の「変革」(Transformation)努力や米国国内の基地の再編などを含む米国の国防政策全体との整合性など多くの要素を考慮しているものである。特に、米国の安全保障はその同盟国などの安全保障に密接に関係しており、米軍の前方展開態勢などは、そういった同盟国の安全保障に対する米軍の関与を最も分かりやすく示すものであることから、米国は、その同盟国や友好国との態勢見直しに関する協議を行っていくことを強調している4。以上のように多くの考慮要素が関連する米軍の態勢見直しは、その終了までに10年を要するとされている。

 
米軍の配置状況

 この米軍の態勢見直しの具体的内容としては、米軍の海外における基地について、恒久的な駐留戦闘部隊の有無や作戦支援機能、施設のレベルに応じて、1)主要作戦基地(Main Operating Bases)、2)前方作戦拠点施設(Forward Operating Sites)、3)協力的安全保障拠点(Cooperative Security Locations)の3種類の基地を構想し、戦略的拠点と実際に作戦を行う地点の間の移動や物資の輸送をスムーズに行う態勢を構築することとしている。また、緊急時に、地理的に離れた地域からも、必要な地域への兵力の投入を可能とする、グローバルな兵力管理システムを導入することとしている5
 地域ごとの見直しの内容として、まず、欧州については、米国に帰国する予定の6〜7万人の軍人の多くがこの地域から帰国することとされている。米国は、欧州に、より軽量で展開能力のある陸上兵力や最先端の航空・海上戦力、強化された特殊作戦部隊を配置し、高度な訓練施設を整備して、中東などの焦点となる地域への迅速な展開に備えるという考え方の下、関係国と協議を行っており、陸上・海上・航空司令部を統合し、簡素化する方針を発表している。
 アジア太平洋地域においては、様々なレベルでわが国との協議を行っているほか、韓国との間でも協議が行われている。在韓米軍については、03(平成15)年6月の「未来の米韓同盟政策構想(Future of the Alliance Policy Initiative)」第2回会議において、漢江以南への再配置を2段階で進めることが合意されたほか、昨年7月の同第10回会議では、08(同20)年までにソウル中心部の龍山基地をソウル南方の平澤(ピョンテク)地域に移転することで合意がなされた。また、昨年10月に行われた米韓協議においては、08(同20)年までに3段階に分けて、在韓米軍1万2,500人の削減を行うことで合意されている。

 
在韓米軍の移転・再配置に関する合意

 さらに、中東地域やアフリカ、中南米などの地域においても、不測事態発生時のアクセス確保のための、常駐部隊を伴わない拠点を配置することなどが検討されている。


 
1)米国ホワイトハウス・ホームページ“REVITALIZING NATIONAL DEFENSE”参照

 
2)同上

 
3)ラムズフェルド国防長官の国際戦略問題研究所(IISS)講演(04年6月5日)

 
4)米国「国家防衛戦略」(05年3月)

 
5)同上


 

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