3 派遣の意義と各国の評価
イラク人道復興支援に自衛隊を派遣する意義
イラクにおいては、現在、国民生活の向上や民主的な統治組織の設立などに向けたイラク国民による自主的な国家再建の努力が行われている。この努力に対し、国連は、全ての加盟国に協力を要請している。イラク国民が希望をもって自国の再建に努力することができる環境を整備することが国際社会の責務であり、わが国も国際社会の一員としてイラクの復興支援に関して、同様の責任を負っている。
日本国憲法の前文には、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。」と述べられており、国際紛争を解決する手段として武力の行使は行わない、戦闘行為には参加しないという憲法第9条の制約の範囲内で、この憲法前文の理念に沿った行動をとることが国際社会から求められている。
また、イラクに安定した民主的政権ができることは、中東の安定のために不可欠であり、石油資源の9割近くをこの地域に依存しているわが国にとっても、国家の繁栄と安定に直結していることから、極めて重要である
1。
さらに、わが国が、イラクにおいて人的貢献を行い、米国とともに人道復興支援の汗を流すことにより、日米両国がますます強固な信頼関係で結ばれ、ひいては日米同盟が強化されることとなる。
現在、米英をはじめとする国際社会が、イラクに自由と民主主義をもたらすため幾多の犠牲を払いながらイラクの治安維持、復興支援などに取り組んでいる。しかしながら、フセイン政権の残党などによる散発的・局地的な抵抗活動が継続しており、必ずしも安全とは言えない状況にある。このため、日頃から訓練を積み、厳しい環境においても十分に活動し、危険を回避する能力を保持している自衛隊が派遣されることとなった。
自衛隊は、これまで海外での平和維持活動において大きな成果を上げており、イラクにおいても現地社会と良好な関係を築きながら、医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備、物資の輸送などの支援を行っている。
本年6月8日、安保理決議第1546号が全会一致で採択され、同年6月30日よりイラクが完全な主権を回復し、イラク暫定政府の要請の下に多国籍軍が国際社会の総意を反映してイラク支援のため駐留するなど、国際協調体制が再構築されることとなり、また、多国籍軍の任務に人道復興支援活動が含まれることが明らかになった。わが国の復興支援については、国際社会の責任ある一員として、引き続きイラク人道復興支援特措法に基づき人道復興支援活動を中心とした自衛隊の活動を継続することが重要との考えから、イラク暫定政府からの同意と法的地位の確保を得ることが必要なことなどを踏まえ、政府は同年6月18日に「イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について」を閣議了解し、自衛隊は同多国籍軍の中で引き続き活動を継続していくことを明らかにした
2。
2)「イラクの主権回復後の自衛隊の人道復興支援活動等について」(本年6月18日閣議了解)では、自衛隊は多国籍軍の中で引き続き人道復興支援活動を中心とした活動を継続すること、統合された司令部の下で、同司令部の指揮下に入るわけではないこと、引き続きわが国の主体的判断の下でわが国の指揮に従い、イラク人道復興支援特措法と基本計画に基づき活動を行うこと、この点は米、英両国との間で了解に達していること、憲法の禁ずる武力の行使に当たらず、また他国の武力の行使と一体化するものでないこと、多国籍軍の参加に関する従来の政府見解を変えるものではないことなどが示されている。