イラクにおける人道復興支援活動と安全確保支援活動など
(1)現地到着まで
イラク人道復興支援特措法に基づく基本計画の決定を受けて、防衛庁長官は昨年12月18日に実施要項を定めるとともに、同月19日、自衛隊に対応措置の実施に関する命令を発し、陸・海・空自衛隊は派遣に向けた取組を開始した。
ア 統合幕僚会議
統幕は、02(平成14)年8月以降、米国フロリダ州の米中央軍司令部に連絡幹部を派遣しており、今回の陸・海・空自衛隊の派遣にあたっても、現地情勢などの情報収集を行うとともに、イラク人道復興支援特措法に基づく自衛隊の活動などに関わる事項を米軍などと調整した。また、イラク人道復興支援特措法に基づき派遣される自衛隊の効率的な運用に資するため、自衛隊のイラク派遣にあわせて、バグダッドの連合軍司令部にも連絡幹部を派遣している。
イ 陸上自衛隊
陸自では、第2師団(北海道旭川市)を中心に第1次イラク復興支援群の派遣準備業務を担任し、派遣される隊員に語学(英語とアラビア語)やイスラムの文化・風習・宗教などについての事前教育を行うとともに、警備や給水など現地における活動内容を想定した部隊としての訓練も実施した。
本年1月9日、防衛庁長官より先遣隊派遣命令が出され、同月16日、先遣隊約30名が出国した。先遣隊は翌17日クウェートに到着し、現地の米軍基地において所要の準備・訓練を行った後、同月20日
2にイラクのサマーワに到着した。到着後、先遣隊は、現地における治安情勢の確認、宿営予定地の使用についての調整や建設の準備、地元有力者との意見交換による要望の確認などを積極的に行い、本隊の受け入れ準備を実施した。また、一部の隊員は、帰国して最新の状況を報告した。
同年1月26日、陸自の本隊に派遣命令が出され、同年2月1日、旭川駐屯地において、第1次イラク復興支援群の隊旗授与式が小泉総理を迎えて行われた後、逐次イラクのサマーワに向け出国し、同年3月27日に第1次派遣部隊の現地展開が完了した。その後、5月には順次第11師団(北海道札幌市)を中心とした第2次派遣部隊との交代が行われた。
ウ 海上自衛隊
本年1月26日、海自に対して派遣命令が出されたことに伴い、輸送艦「おおすみ」、護衛艦「むらさめ」の2隻の艦艇、人員約300名の派遣海上輸送部隊が、第1次イラク復興支援群が使用する車両約70両などを室蘭にて搭載し、同年2月20日クウェートに向け出港した。同年3月15日、クウェートに入港し、車両などを陸揚げした後、同年4月8日、日本に帰国した。
エ 航空自衛隊
昨年12月19日、空自に対してイラク復興支援派遣輸送航空隊等編成命令が出され、同月24日、小牧基地においてイラク復興支援派遣輸送航空隊の隊旗授与式が小泉総理を迎えて行われた。同月26日以降、先遣要員がクウェートに順次派遣され、さらに、本年1月9日には、本隊に対して派遣命令が出され、同月22日に政府専用機でクウェートに派遣された。また、同月26日にはC-130H輸送機が派遣された。
(2)具体的な活動
このようにして、イラクに到着した自衛隊は、現地住民の要望を踏まえ、次のような人道復興支援活動と安全確保支援活動などを現地の慣習に十分配意しつつ行っている(本年5月31日現在)。
ア 医療活動
本年2月19日以降、陸自の医官がサマーワ総合病院における症例検討会などへ参加し、現地人医師に対し、診断方法、治療方針について指導・助言を行っている。また、本年3月14日以降、サマーワ市の母子病院において、わが国から供与された医療器材の使用方法と最新の治療技術を指導・助言している。これらの活動に際しては、患者から難病相談に関して感謝されるなどさまざまな成果をあげている。
イ 学校などの公共施設の復旧・整備活動
本年3月25日以降、ムサンナー県ダラージ村の中学校の補修を行い、電気配線や扉などの修繕に当たっている。
また、本年3月30日以降、同地で測量を実施し、ワルカ道路補修作業を開始した。
学校の修復活動では、電気配線工事の際に漏電の可能性があり、点検しながらの工事を余儀なくされ、また、予想以上に雨量が多く、排水も悪いため降雨後の道路補修作業が容易ではないなどの困難もあったが、隊員の努力により、住民の要望に適時的確に応えている。
ウ 給水活動
本年3月26日以降、サマーワ宿営地においてムサンナー県水道局の給水車への配水作業を行っており、これまでおよそ4,840トン(本年5月31日現在)に及ぶ浄水を供給し、住民から感謝されている。予想以上に厳しい寒暖の差、砂嵐、多量の降雨といった過酷な環境下でも活動を継続できるように天幕で浄水セットを防護したり、地盤を強化するなど隊員の懸命の努力で、大きな支障なく活動を行っている。
エ 輸送活動
本年3月3日以降、医療器材などわが国からの人道復興関連物資と陸自の補給物資を空自C-130H輸送機と陸自車両により、関係国・関係機関などの物資・人員を空自C-130H輸送機により輸送している。C-130H輸送機による実績は、輸送回数31回、輸送物資重量96.5トン(本年5月31日現在)である。
オ その他
(ア)ユーフラテス川氾濫対処措置など
ユーフラテス川の約20年ぶりの増水に際して、本年4月1日に陸自部隊が土のう積みなどの氾濫対処措置への協力を行うとともに、同月2日以降、国際協力機構の緊急援助物資のテントを空自C-130H輸送機と陸自車両により輸送した。
(イ)現地の人々との交流
隊員は、子供たちに文房具を配布したり、折り紙を教えたり、音楽演奏を行うなど現地の人々との交流にも努力している。これに対し、現地の子供たちが演劇を催し、絵を贈ってくれるなどの交流が進んでいる。
(ウ)報道関係者の輸送
本年4月、イラク国内において日本人を含む外国人の拘束事件が多発する中、陸自の活動などを取材するためにサマーワに取材員を滞在させていた報道各社から、退避の希望が表明された。当時、サマーワとその他のイラクの都市間において商用航空便は運航されておらず、また、いわゆる民間車両のみで陸路にて国外に退避することは困難を伴う状況となっていたことにかんがみ、サマーワからタリルまで陸自による輸送を行った。具体的には、報道関係の在留邦人10名を、同月15日、サマーワからタリル飛行場まで陸自の車両により輸送した。また、タリルからクウェート間については、空自のC-130H輸送機による輸送を行った。