第3章 わが国の防衛と多様な事態への対応 


解説 文民保護

国民保護法などにおける文民保護
 ジュネーヴ諸条約第1追加議定書に規定される「Civil Defense」、すなわち、文民たる住民を敵対行為の危険から保護することなどを目的とした人道的任務については、これまで一般に、「民間防衛」として知られてきた。わが国に対して武力攻撃が行われるような事態において国民の保護を図る観点から、このための措置については、これまでも、政府としてもその重要性を十分に認識してきたが、わが国においては、必ずしもかかる措置に関し十分な法的枠組みは存在していなかったところである。
 
国際的な特殊標識と身分証明書(識別対象) ・国民の保護のための措置を行う者 ・国民の保護のための措置とために使用される場所、車両、船舶、航空機など

 本年6月に成立した国民保護法においては、武力攻撃事態等における国民の生命、身体及び財産の保護について種々の措置を規定しており、これらの措置は、わが国における武力攻撃事態等に対する対処措置の一つの柱である。

 これらの国民の保護のための措置は、基本的には、国際人道法の主要な条約の一つであるジュネーヴ諸条約第1追加議定書が規定する「文民保護」に該当するものであり、同議定書においては、「文民保護」の任務に従事する者は攻撃などから保護されることとされている。

 すなわち、ジュネーブ諸条約第1追加議定書においては、文民保護の任務(警報の発令、救助、医療、消火など)などを具体的に定義するとともに、文民保護組織の要員や使用される建物・器材を保護するため国際的な特殊標章と身分証明書を定め、これらを識別できるようにしている。
 これを受けて、国民保護法においては、国民の保護のための措置を行う公務員などやその援助を要請された民間人に対し、国際的な特殊標章や身分証明書を交付し又は使用を許可することにより、これら公務員や民間人が敵国の攻撃などから保護されることを表示できるようにしている。

 なお、同法において、国民の保護のための措置を実施するための新たな民間団体を組織することや、既存の民間団体に新たな責務を課すことは規定されていないが、自主防災組織やボランティアが、国民の保護のための措置に資するための自発的な活動を行う場合には、国や地方公共団体が必要な支援を行うよう努める旨規定されている。
 わが国に対して万一侵略があった場合、政府、地方公共団体と国民が一体となって協力し対処する態勢を確立するためのこのような努力は、国民の生命・身体・財産の保護などに対する国民の強い意思の表明でもあり、侵略の抑止につながり、国の安全を確保するため重要な意義を有すると考えている。

諸外国における文民保護を含む緊急事態法制
 諸外国においても、有事における文民保護については、その国の憲法や置かれている国際環境などを踏まえ、さまざまな規定が整備されている。
(1)韓国
 法律で「すべての国民は、国家及び地方自治団体が行う国民の保護などに協調し、法に規定した個々の義務を誠実に履行しなければならない」こと、「民防衛隊は、20歳から45歳までの大韓民国国民である男性で組織する」ことを規定するとともに、政令で、有事における民防衛隊の任務として、1)警報伝達と待避、2)消火活動、人命救助、医療活動などについて規定している。
(2)ドイツ
 法律で「(大惨事の)時点での労働力が出動事態の際十分でない場合に、満18歳以上満60歳未満の男女に対して、防衛事態において差し迫る重大な危険及び損害の克服の際に救援をすることを義務付けることができる」ことを規定している。
(3)スイス
 法律で「スイスの市民権を持つ男子で、兵役義務及び民間役務義務を負わない者すべては、文民保護の服務義務を負う」こと、「服務義務は、20歳に達する年に開始し、52歳に達する年の末日に終了する」ことを規定しており、民防衛隊の任務として、1)住民に対する情報の提供、2)住民への警報と避難行動の指示の伝達、3)救援、4)保護を求める者の受入れ、5)文化財の保護などを規定している。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む