第2章 わが国の防衛政策 


日米安保協力の変遷

 第二次世界大戦後、半世紀以上の長きにわたり、わが国が平和と安全を享受することができた背景には、自らの防衛力整備に努めてきたことに加え、日米安保条約を中核とする日米安保体制を堅持してきたことが挙げられる。一方、独立当時から今日に至るまで、日米安保体制は、わが国の進路をめぐる重要な局面において、様々な角度から議論されてきた。

旧日米安保条約の時代(51〜57年)
 51(昭和26)年9月8日、わが国はサンフランシスコにおいて平和条約に調印し、大戦後の宿願となっていた独立を回復した。さらに、同日、吉田総理(当時)は米国との間で「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(旧安保条約)に署名し、米国との同盟関係を確立した(52(同27)年4月発効)。当時の国際環境は、朝鮮戦争の勃発に見られるように、冷戦下の東西対立の激化を反映し、極めて厳しいものであった。そのため、わが国の独立と平和を守るためには米軍の駐留を前提とし、米国の協力を得ることが不可欠と認識されていた。旧安保条約はその後の日米の協力関係の基調となったが、米国の日本防衛義務が不明確であること1、いわゆる「内乱条項」2(日本の内乱に米軍が出動できるとする規定)が含まれていることなどについては、その不平等性をめぐり日本国内で活発な議論が行われた。

安保条約の改定(57〜75年)
 57(同32)年6月、岸総理(当時)は、旧安保条約をめぐる議論を踏まえ、米国に対し旧安保条約の改定を提起した。その後の交渉を経て、60(同35)年1月、両国は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(現安保条約)に署名した。条約の改定に伴い、いわゆる「内乱条項」が削除され、米国の日本防衛義務が明確化されたほか、米軍の行動に関する両国政府の事前協議の枠組みが設けられるなど、旧安保条約の不平等性が是正された。また、安全保障のみならず、両国の政治的・経済的協力の促進についても規定されたことは、現安保条約の特色の一つである。
 現安保条約の国会批准をめぐっては、激しい反対運動が展開されたが、同年6月に国会承認された。
 
日米安保協力における主な出来事

旧ガイドラインの策定と拡大する日米防衛協力(75〜91年)
 現安保条約調印後、両国間の協力関係は政治・経済の両面において緊密化したが、わが国有事の際の共同対処の要領を含め、両国間の運用協力についての具体的な議論は必ずしも十分には行われず、また、その運用協力のための協議機関も設けられていなかった。そのような状況の中、75(同50)年8月、三木総理(当時)とフォード米大統領(当時)との会談で、「両国の関係当局者が日米安全保障協議委員会の枠内で協議を行う」ことが合意され、76(同51)年7月、日米防衛協力小委員会の設置が合意された。
 同小委員会における検討を通じ、78(同53)年、旧「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」が策定された。同指針の下で、リムパックや日米共同方面隊指揮所演習への参加などを通じ日米共同訓練が活発化するなど、日米防衛協力はより実効的なものへと発展していった。

冷戦の崩壊と新ガイドラインの策定(91〜01年)
 91(平成3)年12月、旧ソ連は崩壊して冷戦は終結し、わが国に対する大規模侵略が生起する可能性は遠のいた一方で、93(同5)年の北朝鮮による核開発疑惑とこれに伴う朝鮮半島情勢の緊迫化などに見られるように、アジア太平洋地域には依然として不安定性と不確実性が存在していることが明らかになった。
 このような情勢を踏まえ、96(同8)年に「日米安保共同宣言」が発表され、97(同9)年にガイドラインの見直しが行われるなど日米安保体制の信頼性は一層向上した(2章4節(p103)参照。)。また、日米安保体制に伴う沖縄の負担について軽減を図らなければならないとの認識から、「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」により検討が進められ、96(同8)年12月普天間飛行場の返還及び移設を含む最終報告がとりまとめられた(5章4節(p302)参照。)。

米国同時多発テロ以降の日米関係(01〜04年)
 01(同13)年9月11日に発生した米国同時多発テロは、国際テロリズムや大量破壊兵器などの拡散といった、グローバルに存在する新たなかつ深刻な脅威に、国際社会が直面しているということを人々に印象づけた。現にテロとの闘いに見られるように、日米が協力してグローバルな問題に対応する場合が見られている。昨年5月の日米首脳会談において、小泉総理とブッシュ米大統領は、「世界の中の日米同盟」を強化していくことに合意したが、日米両国には、これらの新たな課題に対処するため、国際社会と協力しつつよりグローバルな協力を強化していくことが求められている。



 
1)旧日米安保条約第1条では日本に駐留する米軍を「外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる。」と定めていた。

 
2)旧日米安保条約第1条では日本に駐留する米軍を「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によって引き起こされた日本国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、…使用することができる。」と定めていた。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む