パキスタン
パキスタンは、約1億5,000万人の人口を有し、インド、イラン、アフガニスタン、中国と国境を接する地政学的にも重要な位置を占める南西アジアの主要な国家の一つである。また、現在は、国際的なテロとの闘いや大量破壊兵器などの不拡散をめぐる同国の取組にも国際的な関心が高まっている。
パキスタンは、いかなる核の傘も持たない以上、インドの核に対抗するために自国が核抑止力を保持することは、安全保障と自衛の観点から必要不可欠であるとしている。
パキスタン軍は、陸上戦力として9個軍団約55万人、海上戦力として1個艦隊約40隻約8万6,000トン、航空戦力として12個戦闘航空団などを含む作戦機約380機を有している。
対外関係では、イスラム諸国との友好・協力関係を重視しつつ、インドとの対抗上、特に中国との関係を重視している。また、米国での同時多発テロ以降、米国などによるテロとの闘いへの協力を表明した
8。この協力は国際的に評価され、98(同10)年の核実験を理由に米国などにより科されていた制裁は解除された
9。
99(同11)年10月、ムシャラフ陸軍参謀長は軍事クーデターを起こして軍政を開始し、01(同13)年6月には、自ら陸軍参謀長を兼任する形で大統領に就任したが、同年8月、上下院選挙の時期と憲法改正実施などを含む民政移管プロセスを発表した
10。同年9月の米国同時多発テロとその後のテロとの闘いの中でパキスタン国内の安定が内外から求められたことを受けて、02年4月、同大統領の5年間の任期延長を問う国民投票
11を行うとともに同年8月には大統領の権限を強化した憲法改正を発表した
12。
また、民政移管に向けて行われた同年10月の下院と州議会選挙以降、ムシャラフ大統領と野党勢力が対立し、議会は空転していたが
13、昨年12月、同大統領が本年中に陸軍参謀長職を辞すことを表明したことから和解が成立し、本年1月には同大統領は議会から信任され、初の議会演説を行った
14。
同年2月、ムシャラフ大統領は、A,Q,カーン博士を含む同国の一部の科学者らが、核技術拡散に関与していたことを公表する一方
15、この問題に関するパキスタン政府の関与は否定した。
しかし、カシミール問題を含めインドとの関係改善に取り組む姿勢や対テロ協力と大量破壊兵器の拡散問題をめぐる米国などとの協調路線
16を採るムシャラフ大統領に対しては国内外のイスラム過激派などからの反発も見られ、昨年12月には同大統領を狙った2回の暗殺未遂事件が発生している。
今後、国際的なテロとの闘いや大量破壊兵器の不拡散への取組を進め、また、南アジア地域の安定を図る上でもパキスタン国内の安定は非常に重要な問題である。
8)パキスタンは、米軍の対アフガニスタン作戦に対する後方支援、アフガニスタン国境沿いの地域におけるテロリストなどの掃討作戦を実施したほか、本年4月以降はインド洋における海上作戦に艦船を派遣するなど、米国などによるテロとの闘いに協力している。こうした米国への協力を評価し、本年3月、パウエル米国務長官はパキスタンを「主要な非NATO主要同盟国」に指定する意向を示した。
13)02(平成14)年10月の下院と州議会選挙、また、昨年2月の上院選挙で躍進した反米的なイスラム政党は、ムシャラフ大統領による憲法改正や同大統領が陸軍参謀長を兼務していることに強く反発していた。
14)本年1月に上下院で行った演説の中で、ムシャラフ大統領は、パキスタンの大多数の国民は過激主義を拒絶する穏健な人々であるとし、議会と国民に対し、「過激主義へのジハード(聖戦)」を開始するよう呼びかけた。
15)核技術の他国への移転を行った中心人物とされるカーン博士はパキスタン国内で英雄視されていたこともあり、ムシャラフ大統領のこうした対応について国内には反発もあると言われている。