第6章 今後の防衛庁・自衛隊のあり方 

1 米国のミサイル防衛

 現在のブッシュ政権は、ポスト冷戦の安全保障環境の変化を強く意識して、ミサイル防衛を国防政策の重要課題1として位置付け、昨年6月には対弾道ミサイル・システム制限(ABM:Anti-Ballistic Missile)条約2からも脱退し、ミサイル防衛体制の構築を推進している。米国のミサイル防衛計画の概要は次のとおりである。
 弾道ミサイルの飛翔経路は、1)発射された直後でロケットエンジンが燃焼しているブースト段階、2)ロケットエンジンの燃焼が終了し、慣性運動によって基本的に宇宙空間(大気圏外)を飛んでいるミッドコース段階、3)その後大気圏に再突入して着弾するまでのターミナル段階の3つに分類できる。現在、それぞれの段階に適した迎撃システムが考えられているが、それぞれの対処方法にはメリット・デメリットがあるため、米国は、様々な防衛システムを組み合わせ、相互に補って対応する多層的防衛システムの研究開発を進めている。
 まず、ブースト段階において弾道ミサイルを迎撃するために、航空機に搭載したレーザーシステム(ABL:Airborne Laser)を用いた空中配備型のシステムが計画されている。
 次に、ミッドコース段階で弾道ミサイル迎撃するためのシステムとして、地上配備型ミッドコース防衛システム(GMD:Ground- based Mid-course Defense)と海上配備型ミッドコース防衛システム(SMD:Sea- based Mid-course Defense)がある。GMDは、固定式のミサイルサイトやレーダーサイトからなる。また、SMDでは、イージス艦3を使用して弾道ミサイルを探知、ミッドコース段階で迎撃することとなっており、現在、迎撃用のミサイル4の開発とイージスレーダーの改良などが進められている。
 ターミナル段階で弾道ミサイルを迎撃するためのシステムとして、地上配備型のシステムである戦域高高度地域防衛(THAAD:Theater High Altitude Area Defense)と地対空誘導弾ペトリオットPAC−3(:PATRIOT Advanced Capability-3)などがある。THAADは、空輸が可能で、ターミナル段階での迎撃を目的とするが、大気圏内だけでなく大気圏外でも迎撃できるように計画されている。PAC−3も、空輸が可能であり、ターミナル段階での迎撃を目的とするが、大気圏内の近距離で迎撃するように設計されている。
 また、長射程の弾道ミサイルを早期に探知するには、長距離センサーや広範囲にわたる監視網が必要となる。このため、米国では既に人工衛星による監視を行っているが、監視範囲・精度や情報伝達などの点でさらに性能を向上させた、赤外線センサーを搭載した新たな衛星STSS(Space Tracking and Surveillance System)を打ち上げる計画のほか、地上配備や海上配備のレーダの整備が進んでいる。
 このように、米国が計画している多層的防衛システムは、様々なシステムから構成されており、これら複数のシステム間の連携を行い、瞬時に最も効果的な迎撃手段の組み合わせを実行することが必要となる。このため、システム全体の戦闘管理システムについての研究開発も進められている。

 
BMDシステムの構成例



 
1)昨年1月の「核態勢の見直し」(NPR)においては「非核(通常)と核攻撃能力」「防衛(ミサイル防衛を含む)」「国防基盤(国防産業など)」が新たな3本柱とされている。

 
2)1972(昭和47)年に米ソ間で締結され、自国防衛のための対弾道ミサイル・システムの配備などを制限した条約。

 
3)目標の捜索、探知、分類識別、攻撃までの一連の動作を高性能コンピュータによって自動的に処理するイージス防空システムを備えた艦艇をいう。

 
4)迎撃用ミサイルには、キネティック弾頭と呼ばれる自律機動する特殊な弾頭が収められる。キネティック弾頭を直撃させることで、弾道ミサイルの弾頭内に格納された大量破壊兵器をできる限り確実に破壊する。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む