第6章 今後の防衛庁・自衛隊のあり方 


解説 諸外国の統合について

1 諸外国における統合の潮流
 欧米を中心とした諸外国において統合が大きく進展したのは、特に冷戦後のことである。冷戦の終結に伴い、圧倒的な軍事力を背景とする東西間の軍事的対峙(たいじ)の構造は消滅したことから、諸外国はそれまで行ってきた「明確な脅威に対する軍事力の整備」という目標を失い、保持してきた軍事力を削減する動きが世界的に広がっていった。これに伴い、特に欧米各国では、国防費の削減などが進んだが、一方で、その後に訪れた民族問題や大量破壊兵器の拡散などの急激な国際環境の変化とテロリズムをはじめとする多様な事態の生起により、軍事力には新たな役割が期待されることとなった。このような環境の変化に対応するため、各国は軍事力の再編成を進めるとともに、国防省などの組織改編、軍隊の統合化を図り、また、軍事力の変革のため国防費も増加傾向に戻すなど、軍事力の維持と多様な事態に対応するための態勢を整えることとなっていった。
 さらに、いち早く統合を進めていた米軍の湾岸戦争における圧倒的な勝利は、統合の有効性を証明する結果となり、各国は統合司令部を創設するなど、最近は特に統合運用の分野での態勢整備を進めてきている。

2 諸外国における統合運用の状況とわが国の検討
 諸外国における統合の形態は、その国の歴史、文化、国民性などにより千差万別であり、それぞれの国は国情に応じて独自の形態を築き上げている。中でも、実際に部隊を運用するための統合運用の態勢は、その国の置かれている状況、軍事力に期待される任務や役割などに応じて様々な態勢が存在している。例えば、統合が進んでいると言われる米国は、陸・海・空・海兵の各軍を平時から統合軍として保持している。これに対して英国などは、平時は統合司令部のみを保持し、必要に応じて統合軍を編成して運用するという形態をとっている。さらには、カナダのように一軍制をとり、軍隊の運用そのものが既に統合運用となっている国も存在している。
 このように、各国の統合運用の形態は様々であり、「これが最良の態勢である」と一般的にいえるようなものは存在しない。統合運用態勢を整備する上で最も重要なことは、その態勢が国情に適し、軍事力を最も迅速かつ効果的に運用し得るものであるということであり、決してどこかの国の態勢をそのまま導入すればよいというものではない。さらには、各国の統合運用態勢は幾多の試行錯誤を繰り返しながら整備されてきたものであり、一度に現在の態勢が整備されたものではない。したがって、自衛隊の統合運用態勢の強化に向けて第一歩を踏み出したわが国にとっては、今後も不断の調査・研究、そして検討を行い、わが国にとって最適な統合運用の態勢を模索するとともに、問題点があればこれを速やかに改善していくという柔軟性を保持していくことが重要である。

 

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