第6章 今後の防衛庁・自衛隊のあり方 


解説 弾道ミサイルとは

1 弾道ミサイルの特性
 ミサイルは、ロケットエンジンやジェットエンジンを使って目標に向かって飛ぶ兵器であり、目標破壊のための弾頭、飛行制御のための誘導制御部、エンジンなどの推進部などから構成される。このうち弾道ミサイルは、主にロケットエンジンで推進し、発射後、上昇しながら速度を増しロケットが燃え尽きた後はそのまま慣性で飛翔するため、放物線を描いて目標地点に到達する。
 弾道ミサイルは、空気が非常に薄く、抵抗が少ない大気圏の高層や宇宙空間といった高々度を飛行するため、同じエネルギーでもより遠距離に到達することが可能であり、また、大気中を飛行する航空機や巡航ミサイルよりも高速となる。このため、一般的には、「長射程」、「高速」、「高々度」などの特徴を有するが、具体的には次のとおりである。
射程:短いもので数十km、長いものは1万km以上(東京・朝鮮半島間約900km、東京・ハワイ間約6,400km)
速度:射程1,000km級の弾道ミサイルの最高速度は毎秒約3km(マッハ約9)(航空自衛隊の要撃戦闘機F−15の最高速度の約4倍)
高度:数百kmから1,000km以上(射程1,000km級の弾道ミサイルの最高高度は約300km。旅客機の飛行高度は約10km)
 このように、遠距離から発射され、高々度を超高速で飛行する弾道ミサイルを探知することは非常に困難であり、また、極めて短時間で目標に到達することから、仮に探知できた場合でも、対処のために許される時間は極めて限定される。

2 弾道ミサイルの脅威
 弾道ミサイルは、大量破壊兵器(核・生物・化学兵器)と組み合わせて使用すると、相手に深刻な被害をもたらす重大な脅威となる。
 仮に、核弾頭搭載の弾道ミサイルの攻撃を受ければ、大量の死傷者のみならず、放射能による広範囲の汚染により健康に重大な被害を受ける人が多数発生することが予想される。
 また、生物・化学兵器は、不明な部分が多く被害の見積もりは困難であるが、オウム真理教による「地下鉄サリン事件」や米国での一連の炭疽(たんそ)菌入り郵便物事案などを考慮すれば、仮に、弾道ミサイルと組み合わせて使用された場合、多数の人に深刻な被害を与える可能性がある。
 さらに、これらの使用をほのめかすだけでも心理的効果は非常に大きいと考えられる。
 近年、国際社会では、このような大量破壊兵器と弾道ミサイルの無秩序で急速な移転・拡散が新たな脅威として懸念されている。特に、弾道ミサイルは、東西冷戦の終結後に、一部の保有国から多数の国・地域へ輸出されたため、現在、50か国近い国々が保有するに至っており、長射程化に向けた動きも見られるところである。
 実際にアジアでも多数の弾道ミサイルが配備されており、わが国を射程に収めるものもあると考えられる。また、保有国にわが国への攻撃の意図がなくても、偶発的・突発的に発射される可能性も否定できない。わが国も現実に弾道ミサイルの脅威に直面しており、何らかの有効な防御手段の保有を検討することが必要である。

 

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