第5章 国民と防衛 

教育訓練の制約と対応

(1)陸上自衛隊
 訓練を行う演習場や射場のある場所は地域的に偏っており、また、その数や広さも十分でないため、大部隊の演習や戦車、対戦車ヘリコプター、ミサイル、長射程の火砲の射撃訓練などを十分にできない状況にあり、装備の近代化に伴いこの制約は大きくなる傾向にある。また、演習場や射場の周辺地域の都市化に伴う制約も年々増えている。
 こうした制約に対応するため、師団(しだん)レベルの実動演習を北海道などの大規模な演習場まで移動して行うなど、限られた国内演習場を最大限に活用している。また、射程が長く国内では射撃できない地対空誘導弾(改良ホーク)や地対艦誘導弾のほか、国内ではその機能を十分に発揮した状態で射撃できない対戦車ヘリコプター、多目的誘導弾システム、戦車などの実射訓練を米国で行っている。

 
96式多目的誘導弾システム(MPMS)の実弾射撃訓練を行っている陸自第4対舟艇対戦車隊(昨年8月 米国ヤキマ演習場)

(2)海上自衛隊
 国内には、実戦に近い厳しい電子戦1環境下での訓練ができるエリアや、ミサイル・魚雷発射訓練の評価ができる大規模な施設などがないことから、国内では得られない訓練環境が確保できるハワイ沖などでの訓練を行っている。
 また訓練海域は、水深などとの関連から、使用できる場所や時期などに制約がある。特に、掃海(そうかい)訓練、潜水艦救難訓練などに適した比較的浅い海域は、一般船舶の航行や漁船の操業などと競合するため、むつ湾や周防灘(すおうだな)などの一部に限られる。このため、短期間により多くの部隊が訓練成果を上げられるような計画を作り、効率的な訓練に努めている。

 
指定された海域で掃海訓練を行っている掃海艇「ひこしま」の海自隊員(周防灘)

(3)航空自衛隊
 国内の訓練空域は、十分な広さがなく高速で飛行する戦闘機の特性を最大限発揮した訓練などが実施できない。このため、組織的な行動による実戦的な訓練に制約を受ける。また、訓練空域と多くの基地との往復には長時間を要し、電子戦訓練を実施する場合には、電波の干渉防止などの観点から制約があるなどの問題もある。
 さらに、多くの基地においては早朝や夜間の飛行訓練の制約があり、また、ミサイルなどの射場についても制約がある。
 このため、従来から、国内では得られない訓練環境を確保できる米国で、地対空誘導弾(ペトリオット)の実射訓練を行うほか、グアムにおける日米共同訓練を実施している。
 また、本年度は、米空軍演習(コープサンダー演習)2にF-15要撃戦闘機とE-767早期警戒管制機を新たに参加させ、空域や電波使用などについて制約のほとんどない環境下での訓練を行った。

 
日米共同訓練において対戦闘機戦闘訓練のため飛行場を離陸する空自F-15要撃戦闘機(昨年7月 グアム)



 
1)敵の電磁波を探知し、これを逆用し、あるいは、その使用効果を低下させ、又は無効にするとともに、味方の電磁波の利用を確保する活動のこと。

 
2)米空軍演習(コープサンダー演習)には、平成8年度からほぼ毎年、C-130H輸送機や基地防空隊などを参加させてきた。


 

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