第4章 より安定した安全保障環境の構築への貢献 

重要度を増す多国間の安全保障対話

(1)多国間安全保障対話の意義
 アジア太平洋の一部地域における不透明・不確実な要素の存在や近年問題となっている大量破壊兵器の拡散などの新たな脅威は、地域全体の安全保障上の不安定要因となり得る。
 多国間の安全保障対話では、安全保障に関する共通の関心事項について関係国間で意見交換を行い、相互理解を深めることで、国家間の信頼関係を増進でき、また、複数国間にまたがる問題について関係国がイニシアティブを発揮することで、地域の平和と安定に効果的に貢献できるため、その意義は極めて大きい。
 また、PKO活動など、多国間での取組を容易にするという具体的な効果もある。

(2)ASEAN地域フォーラム(ARF)
 ARFは、アジア太平洋地域における唯一の全域的な政治・安全保障対話の場として、94(同6)年の第1回閣僚会合以降、その活動の裾野(すその)を広げつつ着実に進展している。
 95(同7)年の第2回閣僚会合では、ARFの今後のプロセスとして、1)信頼醸成の促進、2)予防外交の進展、3)紛争へのアプローチの充実の3段階が漸進的に進められるべきことなどが合意された。
 防衛庁は、ARFがアジア太平洋諸国の共同体意識を醸成し、地域の安全保障環境を安定化させるものとなるには、ARFのプロセスが進展する中で、防衛当局間の信頼関係の増進が重要であると考えている。この観点から、防衛庁は、ARFにおける防衛政策の透明性の向上、防衛当局間の率直な意見交換などを通じた相互理解と信頼関係の増進を図るための努力を続けている。
 ARFでは、外相級の閣僚会合:Ministerial Meetingの他に、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials Meeting)や信頼醸成に関するインターセッショナル支援グループ(ISG:Inter-Sessional Support Group)が開催されている。
 このような場で、外務当局者と合同で行われる全体会合:Plenary Meetingとは別に、国防当局者会合:Defence Officials Meetingや国防当局者による昼食会を開催することが昨年から定例化しており、防衛庁からも関係者が積極的に参加して各国の国防当局者との間で率直な意見交換を行うなど、国防当局者のARFへの関与は着実に進展している。
 なお、01(同13)年8月には、防衛研究所主催により、第5回ARF国防大学校長等会議を開催した。

(3)防衛庁主催による多国間の安全保障対話
 防衛庁は、各国国防当局者との情報・意見交換を通じた相互理解の増進と信頼醸成を図るため、わが国が主体性をもって積極的に安全保障対話を進めることが、アジア太平洋地域の安定化に重要であると考えている。防衛庁は、このような認識の下、次のような安全保障対話などの機会を設けている。  
ア 内部部局など
 昨年10月、第7回アジア・太平洋地域防衛当局者フォーラム(東京ディフェンスフォーラム)を開催した。このフォーラムは、96(同8)年から防衛庁が主催しているもので、アジア太平洋地域の国防政策又は防衛交流担当局長・局次長クラスの防衛当局者が一堂に会し、地域の安全保障について直接対話を行う唯一の場として始まった。このフォーラムは、各国の国防政策への相互理解を深め、その透明性を高めて地域の安定化に寄与することを目的とし、各国の国防政策や、国防面に焦点を当てた信頼醸成措置への取組について意見交換を行ってきた。このような意見交換などを通じ、防衛当局間で安全保障対話・防衛交流を進めることが重要であるとの共通認識が得られている。
 昨年10月のフォーラムでは、アジア太平洋地域の21か国1と1機関(EU:European Union)の参加を得て、各国の国防政策と地域の信頼醸成における防衛当局の役割などについて意見交換を行った。そのほか、テロ対策における軍の役割などについて議論を行った。また、本年1月には、同じく21か国1機関の参加を得て、第2回目の課長(大佐)クラスによる分科会を開催し、化学兵器の拡散への対応、対人地雷廃絶のための取組について集中的な議論を行った。

 
第7回アジア・太平洋地域防衛当局者フォーラムで開会の挨拶を行う赤城副長官(昨年10月 東京)

イ 陸上自衛隊
 本年2月、英国、ドイツ、フランス、米国の兵站(へいたん)実務担当者などを招へいして、第6回陸軍兵站実務者交流(MLST:Multilateral Logistics Staff Talks)を開催した。この交流は、後方支援体制のあり方などについて意見交換を行うことにより、各国との相互理解の促進と信頼醸成を図ることを目的とするものである。今回は戦争以外の作戦における兵站支援などについて意見を交換した。

 
陸幕装備部が進行役となり議論中の第6回陸軍兵站実務者交流(本年2月 市ヶ谷防衛庁)

ウ 海上自衛隊
 昨年11月、海自は、創設50周年に併せて、2回目の主催2となる第8回西太平洋海軍シンポジウム(WPNS:Western Pacific Naval Symposium)を開催した。これは海洋に関する事項を検討するためのフォーラムを提供することで、西太平洋の海軍間の協力を増進し、海軍の専門家間の情報交換を増進させて共通の理解を得ることなどを目的としている。本シンポジウムでは、海軍参謀総長クラスなど11名を含む18か国から3の参加を得て、1)訓練を通じての協力の促進、2)将来、西太平洋地域のイニシアティブ4をとること、3)インターオペラビリティ5の増進などについて意見交換を行った。88(昭和63)年から始まったWPNSは、当初のお互いを知り合う場から信頼関係を構築する場に発展してきた。さらに共同訓練の実施やインターオペラビリティの向上についても話し合う場にもなってきている。
 また、同シンポジウムの下での幕僚レベルの協議として、ワークショップなどを行っている。

 
石川海上幕僚長(当時)が議長となり議事を進行する第8回西太平洋海軍シンポジウム(昨年10月 東京)

エ 航空自衛隊
 本年2月、第7回国際航空防衛教育セミナーを開催した。このセミナーは、アジア太平洋諸国の空軍大学関係者などを招へいし、幹部教育などについて意見交換を行うものである。本セミナーは、各国の幹部教育の実情と考え方を理解して、空自の教育の資を得るとともに、相互理解を深めることを目的として行ったものである。今回は、6か国6からの参加を得て、空軍大学などにおける教官養成についての討論を行い、参加国の実情を把握するとともに、相互に理解を深めた。

 
空自幹部学校が主催した第7回国際航空防衛教育セミナー(本年2月 目黒 空自幹部学校)

オ 防衛大学校
 昨年7月、第8回国際防衛学セミナーを開催した。これは、防衛学教育・研究の充実、発展、参加国間の相互理解の促進を目的とし、96(平成8)年からアジア太平洋諸国の軍学校の教官などが参加している。今回は、13か国7からの参加を得て、「士官候補生教育における歴史教育」について研究会などを行った。
 また、本年3月、12か国8の士官候補生を招いて第6回国際士官候補生会議を開催した。この会議は、学生の国際感覚を養うとともに、参加国間の相互理解の促進などを目的とし、「21世紀における軍隊」をテーマとして意見を交換した。

 
第6回国際士官候補生会議(昨年7月 横須賀 防衛大学校)

カ 防衛研究所
 昨年11月、第9回アジア・太平洋諸国安全保障セミナーを開催した。このセミナーは、参加各国軍人間の相互理解を深め、信頼関係を増進するとともに、隊員の国際感覚の向上を目的とし、94(同6)年から毎年開催されている。今回は、18か国9からの参加を得て、アジア太平洋地域の安全保障秩序と国連平和維持活動に焦点を当てた発表や討議、部隊見学などを行った。
 また、諸外国の著名な有識者を招いて、公開の場で意見発表を行い、わが国における安全保障対話・防衛論議の促進に貢献するため、安全保障国際シンポジウムを毎年開催している。
 さらに、昨年9月、戦争史研究国際フォーラムを開催した。同フォーラムは、戦争史を多国間で比較することで当該国との相互理解を深め、信頼関係の構築に寄与することを目的として毎年開催しているものである。
 なお、地域の軍事に関する透明性の向上などのため、研究者による研究成果を取りまとめた「東アジア戦略概観」10を96(同8)年から毎年刊行している。
 防衛庁・自衛隊では、その他、次の図表のような防衛庁主催による多国間の安全保障対話を行っている。

 
戦争史研究国際フォーラム(昨年9月 東京)

 
防衛庁主催による多国間安全保障対話

(4)その他の多国間の対話への参加
 防衛庁・自衛隊では、次の図表のような対話の場に参加し、様々な分野での意見交換に努めている。
 この中で、本年5月、英国の国際戦略研究所(IISS:International Institute for Strategic Studies)が主催し、シンガポールで開催された「アジア安全保障会議」には、石破防衛庁長官が出席し「アジア太平洋の安全保障に関する地域的展望」についてスピーチを行った11。この会議には、アジア太平洋地域などの国から多数の国防大臣などが参加し、地域の安全保障に関する問題についての議論、意見交換が行われた12
 また、昨年11月、シンガポールで行われた第5回アジア・太平洋諸国参謀総長等会議(CHOD:Asia-Pacific Chief of Defense Conference)には、竹河内統幕議長(当時)が参加した。本会議では、関係国軍の参謀総長等13が一堂に会し、「21世紀における安全保障課題への取組」をテーマとして、テロ問題、国際犯罪、環境問題などについて意見交換を行い、安全保障上の関係強化を図った。

 
その他の多国間安全保障対話など(持ち回り開催または他国などで開催される多国間安全保障対話など)



 
1)ARF加盟国から北朝鮮を除く21か国:米国、インド、インドネシア、オーストラリア、カナダ、韓国、カンボジア、シンガポール、タイ、中国、日本、ニュージーランド、パプア・ニューギニア、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス、ロシア

 
2)1回目は、1996(平成8)年に主催した第5回西太平洋海軍シンポジウム。

 
3)参加国:米国、インドネシア、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、中国、トンガ、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、フランス、ベトナム、マレーシア及びロシア
オブザーバー参加国:インドカナダ、チリ

 
4)具体的には、災害救助、次世代のための交流などにおけるイニシアティブ

 
5)具体的には、捜索救難、人道支援、災害救助、掃海、補給などのインターオペラビリティ

 
6)参加国:米国、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、フィリピン

 
7)参加国:米国、オーストラリア、カナダ、インド、インドネシア、韓国、シンガポール、タイ、中国、フィリピン、マレーシア、モンゴル、ロシア

 
8)参加国:米国、イタリア、インドネシア、英国、オーストラリア、カナダ、韓国、シンガポール、タイ、フィリピン、フランス、マレーシア

 
9)参加国:米国、インド、インドネシア、オーストラリア、カナダ、韓国、カンボジア、シンガポール、タイ、
ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス、ロシア

 
10)東アジア戦略概観。
http://www.nids.go.jp/dissemination/east-asian/index.html

 
11)資料40参照

 
12)防衛庁長官のほか、18か国から国防大臣などが参加。

 
13)米統合参謀本部副議長のほか、アジア・太平洋地域21か国の参謀総長などが参加。


 

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