第3章 緊急事態への対応 

今後取り組むべき分野

【国民の保護のための法制】
 国民の保護のための法制については、政府はこれまでの検討状況に基づき、「国民の保護のための法制について」を取りまとめ、本年の通常国会において説明したが、その内容は次のとおりである。

 国民の保護のための法制については、国民の権利・義務とも関係を有し、検討事項も多岐に及ぶことから、地方公共団体や関係する民間機関などの意見を聴き、十分な国民の理解を得つつ整備を進めていくべきものである。そのため、武力攻撃事態等対処法案の成立後、早急に関係する団体や機関との本格的な調整を進めることとしている。
 次に示すものは、昨年公表した国民の保護のための法制の輪郭について、地方公共団体や関係する民間機関などの意見を踏まえ、取りまとめたものである。
○ 目 的
1) 地方公共団体その他の機関の実施すべき措置を明確化
2) 国全体として万全な態勢を整備し、国民の保護のための措置を総合的に推進
3) 国、地方公共団体その他の機関が相互に協力
○ 配慮事項
1) 高齢者、障害者、乳幼児など特に配慮を要する者の保護に留意
2) 国際的な武力紛争において適用される国際人道法の的確な実施

(1)国の責任の明確化
ア 国による主導的な対処
 1)国は、武力攻撃事態において、対処基本方針を策定し国民の保護のための措置を総合的に推進、2)指定行政機関、地方公共団体、指定公共機関などの計画又は業務計画の指針となる「国民の保護に関する基本指針」を策定、3)武力攻撃事態対策本部長(以下、対策本部長)は住民の避難を実施するに当たり、都道府県知事に対して避難に関する措置を実施すべき旨を指示、4)地方公共団体の対処措置などに要する費用については、国費の負担。
イ 国の方針に基づく対処
 1)指定行政機関及び指定地方行政機関は、基本指針に基づき国民の保護に関する計画を策定。2)都道府県、市町村は基本指針に基づき国民の保護に関する計画を策定。3)指定公共機関は基本指針に基づき国民の保護に関する業務計画を策定。
ウ 国による対処措置
 1)対策本部長は、武力攻撃災害の発生が予測され、又は現に武力攻撃災害が発生したときは、武力攻撃事態の現状及び今後の予測、武力攻撃災害が予測される地域、住民の避難のため実施される対処措置に関する事項、についての警報を発令、2)国は、原子力施設などの安全確保などのため、取扱事業者に必要な措置を命令、3)国は、武力攻撃に伴い放射性物質、毒性物質などによる汚染が生じたときは、汚染の除去など必要な措置を実施、4)国は、状況により、外国人医療関係者による医療の提供又は外国医薬品の授与を承認、5)国は、国民生活の安定などのための措置を実施。6)国は、現行法制の特例を制定。
エ 地方公共団体などへの支援
 1)国は避難住民などの救援に必要な物資及び資材を供給するとともに、地方公共団体が行う救援に対し必要な支援を実施、2)国は、大規模又は特殊な武力攻撃災害の対処に関し、自ら必要な措置を実施、3)国は、都道府県などの応急復旧に対し必要な支援を実施。
オ 内閣総理大臣による是正措置
 内閣総理大臣は、次の措置に関し是正のための「指示」又は「自らの対処措置の実施」を行うことができる。
 都道府県知事の、1)住民に対する避難指示、2)住民の避難誘導、3)都道府県の区域を越えた避難住民の受入れ、4)避難住民の救援、に関する措置。指定公共機関である運送事業者の避難住民又は救援のための緊急物資の運送に関する措置。公共的施設の管理者の応急復旧に関する措置
カ 国民への情報の提供
 1)警報の発令、2)武力攻撃事態などの状況の公表、3)被災状況の公表、4)安否情報の提供、5)インターネットの活用

(2)地方公共団体の役割
ア 地方公共団体の責任と権限
 1)閣議決定で指定された都道府県及び市町村は、都道府県知事又は市町村長を本部長とする国民保護対策本部を設置、2)都道府県知事は、住民に対する避難指示、避難住民などの救援を実施、3)市町村長は、避難住民の誘導を行い、武力攻撃災害発生の際は応急措置などを実施。
イ 地方公共団体による避難の措置
 1)都道府県知事は、対策本部長の指示を受けて住民に対し避難を指示、2)都道府県知事は、都道府県の区域を越えて避難を指示するときは、避難先の都道府県知事に対し、避難住民の受入れを要請、3)市町村長は、職員を指揮し、避難住民を誘導。消防は、市町村長の命を受け、避難住民を誘導。警察及び海上保安庁、自衛隊は、市町村長を中心に調整を行って避難住民を誘導、4)都道府県知事は、国の定める基準を満たす施設を、管理者の同意を得て避難地として指定、5)国及び地方公共団体は、住民の避難や救援に必要な物資・資材を蓄積。
ウ 地方公共団体による救援
 都道府県知事は、1)避難住民などの救援(収容施設の提供、炊き出し、医療の提供など)を実施、2)収容施設を確保するため、所有者の同意を得て、土地、家屋などを使用、3)医薬品、食品などの物資の生産、販売、輸送などを業とする者に対し、当該物資の保管を命じ売渡しを要請、4)医療関係者に対し医療の提供を要請、5)医療施設確保のため、所有者の同意を得て、土地、家屋などを使用。
エ 地方公共団体による武力攻撃災害への対処
(ア)武力攻撃災害への対処
 武力攻撃災害の兆候を発見した者は市町村長などに通報し、市町村長は都道府県知事に通知。
(イ)市町村長などの応急措置
1)市町村長は、武力攻撃災害が発生又は発生しようとしているときは、応急措置(危険物件の事前措置、一時避難の指示、土地、建物及び物件の一時使用、支障物件の除去、現場での協力要請)を実施(警察官や海上保安官、自衛官も補完的に実施)、
2)市町村長は、武力攻撃災害が発生し、又は発生しようとしているときは、警戒区域を設定。
(ウ)消 防
 都道府県知事は、武力攻撃災害の防御に関し、市町村長などに指示
(エ)生活関連施設の安全確保・交通の規制
 1)都道府県知事は、国の定める生活関連施設の管理者に対し、警備強化など安全確保のための措置を要請。警察、消防などは当該措置を支援、2)都道府県公安委員会、海上保安部長などは、生活関連施設の安全確保のため、当該施設の周辺に立入制限区域を設定、3)都道府県公安委員会は、緊急輸送の確保などのため、交通を規制、4)警察官は、通行禁止区域などにおいて運転者などに対し車両の移動などを指示し、必要に応じ自ら当該措置を実施。
(オ)衛生の確保
 市町村長又は都道府県知事は、廃棄物処理業者などに対し、許可の区域外の廃棄物の処理などを要請

(3)指定公共機関などの役割
ア 指定公共機関の対処措置
 1)放送事業者による、警報、武力攻撃事態などの状況及び避難の指示の内容の放送、2)日本赤十字社による医療その他の救援の協力、3)電気事業者、ガス事業者などによる適切な供給の実施、4)日本銀行による通貨・金融の調節及び信用秩序の維持、5)運送事業者による避難住民又は救援のための緊急物資の運送、6)電気通信事業者による通信の優先的取扱、など。
イ 指定地方公共機関の措置
 都道府県知事は、公益的事業を営む法人又は公共的施設の管理者の中から指定地方公共機関を指定。
 1)放送事業者による警報、武力攻撃事態などの状況や避難の指示の内容の放送、2)ガス事業者などによる適切な供給の実施、3)運送事業者による避難住民又は救援のための緊急物資の運送、など。

(4)国民の役割
ア 国民の協力
(ア)国民は次の協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努める。
 1)住民の避難や被災者の救援の援助、2)消火活動、負傷者の搬送又は被災者の救助の援助、3)保健衛生の確保に関する措置の援助、4)避難に関する訓練への参加。
(イ)国及び地方公共団体は、武力攻撃事態における住民の自主的な防災組織やボランティアの自発的活動に対し支援。
イ 国民の権利及び義務に関する措置
 1)国などによる原子炉、放射性物質及び危険物質などを取り扱う者に対する措置命令。都道府県知事による、2)収容施設を確保し、医療施設を臨時に開設するための土地、家屋などの所有者に対する要請又は当該土地、家屋などの使用、3)医薬品、食品などの緊急物資の保管命令、売渡し要請又は収用、4)医療関係者に対する医療の提供の要請又は指示、5)市町村長による、応急措置としての土地、建物などの一時使用又は物件の使用など。

(5)その他
ア 復旧に関する措置
 指定行政機関の長など災害復旧の実施について責任を有する者は、武力攻撃災害の復旧を実施
イ 損失補償・損害賠償
 1)この法制に基づき、収容その他の処分を受け、又は総合調整若しくは指示に従った結果不測の損失を受けた者に対し、通常生ずべき損失を補償、2)協力した住民又は医療を提供した医療関係者が死亡又は負傷などしたときは、損害を補償。
ウ 大都市の特例
 指定都市は、救援に関する事務を実施。
エ 罰 則
 1)原子炉、放射性同位元素、危険物質などによる危険防止のための措置命令に違反した者、2)物資の保管命令に従わず、又は保管命令などに伴う立入検査を拒んだ者、3)交通規則又は警戒区域若しくは立入制限区域の立入制限などに従わなかった者。

【その他の法制】
 武力攻撃事態対処法に定められた枠組の中、自衛隊の電波利用の円滑化、船舶・航空機の航行に関する措置などに関する自衛隊の行動の円滑化のための法制、米軍が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるための措置のほか、捕虜の取扱いに関する法制及び武力紛争時における非人道的行為の処罰に関する法制についても、今後、検討していく必要がある。

 

前の項目に戻る     次の項目に進む