(8)国連安全保障理事会への報告
政府は、国連憲章第51条などに従って、武力攻撃の排除に当たってわが国が講じた措置について直ちに国連安保理事会に報告しなければならない。
(9)事態対処法制の整備
ア 基本方針
(ア)武力攻撃事態等への対処に関する基本理念にのっとり、武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制を整備する。
(イ)事態対処法制は、国際的な武力紛争において適用される国際人道法の的確な実施が確保されたものでなければならない。
(ウ)事態対処法制の整備に当たっては、対処措置について、その内容に応じ、安全の確保のために必要な措置を講ずる。
(エ)事態対処法制の整備に当たっては、対処措置及び被害の復旧に関する措置が的確に実施されるよう必要な財政上の措置を講ずる。
(オ)事態対処法制の整備に当たっては、武力攻撃事態等への対処において国民の協力が得られるよう必要な措置を講ずる。この場合、国民が協力をしたことにより受けた損失に関し、必要な財政上の措置を併せて講ずる。
(カ)事態対処法制について国民の理解を得るために適切な措置を講ずる。
イ 政府は、事態対処法制の整備に当たっては、次の措置が適切かつ効果的に行われるようにする。
(ア)国民の生命、身体及び財産の保護、又は国民生活及び国民経済への影響を最小とするための措置
a 警報の発令、避難の指示、被災者の救助、消防などに関する措置
b 施設及び設備の応急の復旧に関する措置
c 保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置
d 輸送及び通信に関する措置
e 国民の生活の安定に関する措置
f 被害の復旧に関する措置 など
(イ)自衛隊の行動を円滑かつ効果的にするための措置その他の武力攻撃事態等を終結させるための措置
a 捕虜の取扱いに関する措置
b 電波の利用その他通信に関する措置
c 船舶及び航空機の航行に関する措置 など
(ウ)米軍の行動を円滑かつ効果的にするための措置
ウ 政府は、事態対処法制の整備を総合的、計画的かつ速やかに実施しなければならない。
エ イ(ア)の措置に係る法制(国民の保護のための法制)の整備を迅速かつ集中的に推進するため、内閣に、内閣官房長官を長とする国民保護法制整備本部を置く。整備本部員は、内閣総理大臣及び内閣官房長官を除くすべての国務大臣をもって充てる。
(10)その他の緊急事態への対処のための措置
ア 政府は、わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保を図るため、武力攻撃事態等以外の国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態に迅速かつ的確に対処する。
イ 政府は、武装した不審船の出現、大規模なテロリズムの発生などのわが国を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、以下の措置などを速やかに講ずる。
(ア)情報の集約、事態の分析・評価を行うための態勢の充実
(イ)各種の事態に応じた対処方針の策定の準備
(ウ)警察、海上保安庁などと自衛隊の連携の強化
(11)施行期日など
ア この法律は公布の日から施行する
1。ただし、第14条(対策本部長の権限(総合調整))、第15条(内閣総理大臣の権限(指示・自らの対処措置の実施))及び第16条(総合調整又は指示が行われた場合の損失に関する財政上の措置)の規定は、別に法律で定める日から施行する。
イ 政府は、国及び国民の安全に重大な影響を及ぼす緊急事態へのより迅速かつ的確な対処に資する組織のあり方について検討を行う。
【安全保障会議設置法の一部を改正する法律】
(1)安全保障会議への諮問事項
次の項目を諮問事項に追加する。
ア 武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(「対処基本方針」)
イ 内閣総理大臣が必要と認める武力攻撃事態等への対処に関する重要事項
ウ 内閣総理大臣が必要と認める重大緊急事態への対処に関する重要事項
(2)安全保障会議の議員
ア 総務大臣、経済産業大臣及び国土交通大臣を議員に加え、経済財政政策担当大臣を議員から除く。
イ 必要があると認めるときは、議員である国務大臣以外の国務大臣を、議案を限って、議員として臨時に会議に参加させることができるものとする。
ウ 事態対処に関し、事態の分析及び評価について特に集中して審議する必要があると認める場合は、議員を限って事案について審議を行うことができるものとする。ただし、その他の議員を審議に参加させるべき特別の必要があると認めるときは、臨時に当該審議に参加させることができるものとする。
(3)安全保障会議を専門的に補佐する組織
事態対処に関する安全保障会議の審議を迅速かつ的確に実施するため、必要な事項に関する調査・分析を行い、その結果に基づき、安全保障会議に進言する組織として、事態対処専門委員会(委員長:内閣官房長官)を、安全保障会議に置く。
【自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律】
{自衛隊法の一部改正}
(1)防衛出動時における物資の収用などにかかわる規定の整備
ア 自衛隊法第103条の規定により土地を使用する場合において、その土地の上にある立木その他土地に定着する物件(家屋を除く。)が自衛隊の任務遂行(すいこう)の妨げとなると認められるときは、都道府県知事(自衛隊の行動にかかわる地域において事態に照らし緊急を要すると認めるときは、防衛庁長官又は政令で定める者。)(イ、エにおいて同じ。)は、その立木などを移転することができる。この場合において、事態に照らし移転が著しく困難であると認めるときは、その立木などを処分することができる。
イ 自衛隊法第103条の規定により自衛隊の行動にかかわる地域において家屋を使用する場合に、自衛隊の任務遂行上やむを得ない必要があると認められるときは、都道府県知事は、その必要な限度において、その家屋の形状を変更することができる。
ウ 自衛隊法第103条の規定による処分の対象となる施設、土地、物資などを防衛出動を命ぜられた自衛隊の用に供するため必要な事項は、都道府県知事とその処分を要請した者とが協議して定める。
エ 自衛隊法第103条により処分を行う場合には、都道府県知事は、公用令書を交付して行わなければならない。ただし、土地の使用に際して公用令書を交付すべき相手方の所在が知れない場合その他の政令で定める場合にあっては、政令で定めるところにより事後に交付すれば足りる。
オ 自衛隊法第103条の規定により都道府県知事が行う事務に要する経費は、国庫の負担とする。
カ 上記のほか、自衛隊法第103条の規定による処分にかかわる立入検査、損失補償などについて災害救助法の規定を準用していたのを改め、これらについて同条で明示的に規定する。
(2)防衛出動下令前の防御施設構築の措置などにかかわる規定の新設
ア 防衛庁長官は、事態が緊迫し、防衛出動命令が発せられることが予測される場合において、出動が命ぜられた自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域(展開予定地域)があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊などにその展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設(防御施設)を構築する措置を命ずることができる。
イ 上記アの措置の職務に従事する自衛官は、展開予定地域内においてその職務を行うに際し、自己又は自己とともにその職務に従事する隊員の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。その場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。
ウ 上記アの措置を命ぜられた自衛隊の部隊などの任務遂行上必要があると認められるときは、都道府県知事は、展開予定地域内において、防衛庁長官などの要請に基づき、土地を使用することができる。
エ 上記ウにより土地を使用する場合において、立木などが自衛隊の任務遂行(すいこう)の妨げとなると認められるときは、都道府県知事は、その立木などを移転することができる。この場合において、事態に照らし移転が著しく困難であると認めるときは、その立木などを処分することができる。
オ 上記ウ及びエにより土地を使用し、又は立木などを移転し、又は処分する場合の手続及び損失補償については、自衛隊法第103条の規定を準用する。
(3)防衛出動時における自衛隊の緊急通行にかかわる規定の新設
防衛出動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、その自衛隊の行動にかかわる地域内を緊急に移動する場合において、通行に支障がある場所をう回するため必要があるときは、一般交通の用に供しない通路又は公共の用に供しない空地若しくは水面を通行することができる。その場合において、その通行のために損害を受けた者から損失の補償の要求があるときは、その損失を補償する。
(4)取扱物資の保管命令に従わなかった者などに対する罰則
ア 自衛隊法第103条の規定による取扱物資の保管命令に違反してその物資を隠匿(いんとく)し、毀棄(きき)し、又は搬出した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
イ 自衛隊法第103条の規定による立入検査(防衛出動下令前の防御施設構築のために土地を使用する場合の立入検査を含む。)を拒み、妨げ、若しくは忌避(きひ)し、又は同条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、20万円以下の罰金に処する。
ウ 法人の代表者法人又は人の代理人、使用人その他の従業員が、上記ア又はイの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対してもそれぞれの罰金刑を科する。